【フランス人のエスプリを育む読書】マーケティングディレクターのドミニク・ガレタさんの読書

ドミニク・ガレタさんの自宅の窓際書斎

読書や本を眺める時間をこよなく愛するフランス人。長期に休むバカンス先が、もっぱら最大の読書タイムのよう。本の世界で旅したり、他人の人生を生きたりと、おしゃれなフランス人も本の世界で想像を膨らませています。

本で他の人生を生きる。それが読書の魅力

ドミニク・ガレタさん全体写真

廊下、書斎、そしてリビングルーム。目を見張るほど大量の本に埋め尽くされた部屋で暮らすのは、スイス国境に近いブザンソン周辺に住むドミニク・ガレタさん。膨大な数の本は、どのように整理されているのでしょうか。

ドミニク・ガレタさんの自宅の窓際書斎

「小説、ポエム、エッセイ、心理学や社会学といった風にカテゴリー分けしているんです。次にそれらを作家の国別に分類しています。さらにそれをアルファベット順に並べると、思い出して読みたくなったとき、すぐに見つけられます」まるで書店のような見事な整理術。本棚に収まらない本は、ワインケースに収納して棚の上に置いたりと工夫を。

「家族みんなが本が好きで、とくに姉はのちに作家になったほど。学生時代、彼女が文学の勉強をしていたので、本当に本が多かったんです。必要に駆られて整理術が身につきました」

ドミニク・ガレタさんの私物のジュール・ヴェルヌの本の表紙
ジュール・ヴェルヌの本 「子供の頃、両親が買ってくれました。宇宙や見えない力を考えるようになり、私の探究心を奮い立たせてくれた名作の数々。今はスマホですぐに映像が拾えるけど、文字だけの方が間違いなくイマジネーションが広がるはず」
本棚に並べられたドミニク・ガレタさんの私物のジュール・ヴェルヌの大全集
ジュール・ヴェルヌの大全集。1970年代に購入した本の装丁なので、赤い地色に金文字でクラシカルな印象である一方、気球、動物、植物、灯台、船の舵輪などが描かれた、冒険心があふれるデザイン。
書籍『倉俣史朗の世界』の表紙
倉俣史朗の世界』倉俣史朗 監修/田中一光 「デザインやファッションの勉強をしていたのでアートに興味があります。倉俣史朗さんのヨーロッパとアジアの良い部分の架け橋のようなインテリアや空間デザインがとても好きで、2006年に東京で見つけた展覧会カタログです。」
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小さな頃から本好きではあったものの、ドミニクさんが文学に目覚めた!と実感したのは、12歳のときだそう。「それ以前も『海底二万里』のジュール・ヴェルヌ、『モンテ・クリスト伯』のアレクサンドル・デュマなど、子供が好む本を読んでいました。でも12歳でフランス文学やドイツ文学に触れ、そこからは“貪るように”本を読み漁るようになったんです」とくに影響を与えたのは、ロマン主義、写実主義といわれるスタンダールやバルザックといった作家たち。

「人の人生や心理描写を書かせたら、バルザックの右に出る人はいないと思います。たとえばヴィクトル・ユゴーが同じことを描写するには10ページ必要なのに、バルザックは短い描写で的確に表現する。それが彼の魅力です。人生の笑い、怒り、恐れなど、人物描写の素晴らしさにとても惹かれます」

姉の書籍も並べられているドミニク・ガレタさんの本棚
ドミニクさんの姉、作家のアンヌ・ガレタさんの著書『Pas un jour』(2002年)も並ん でいる。アンヌさんの著書の中で『スフィンクス』『“失われた時を求めて”殺人事件』な どは、日本語訳が発売されている。
ドミニク・ガレタさんの私物の教会の用語辞典
コレクションのひとつである、1734年の教会の用語辞典。ドミニクさんも姉アンヌさんも単なる読書家というよりは、専門家による注釈なども楽しむ文学好きな人。古書や古い装丁の本をコレクションしている。
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本を読むのは、リラックスできるソファやベッドの中で。「でも平日は忙しく、なかなか読む時間がありません。週末になると姉が住んでいるパリのアパルトマンで過ごすので、移動途中の列車の中で読んでいます。でももっとも読書が進むのはバカンスのとき。だいたい1日1冊ペースでたくさん本を読みます」

最後にドミニクさんが大切そうに一冊の大きな本を出してくれました。「1734年に発行された教会の用語辞典です。オークションで購入したもので、当時の言葉遣いを知る上でとても役に立つんです。今、使っている言葉と綴りが変わったとか、読んでいるといろいろな発見があります。本は私にとって、人の魂の中に入りこむ作業なんです。本を通じて違う人の人生を生きられる。それによって現在の自分の立ち位置を再確認できます。それがとても素晴らしいことなんです」

『クウネル』2023年1月号掲載

写真/篠あゆみ、コーディネート/石坂のりこ、鈴木ひろこ、文/今井恵

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