心を寄せる日常の積み重ねが”言葉の筋肉”を鍛える。【Vol.2俵万智さんが気になるフレーズ】
歌人の俵万智さんが昨年出版した言葉をめぐる新書『生きる言葉』が大きな反響を呼んでいます。短歌の世界はもちろん、映画や演劇、ラップ音楽の言葉、ネットに氾濫する言葉、AIの出現などなど、多面的な角度から俵さんが考え、深めていった言葉への思い。そんな俵さんに聞く「言葉の力」とは。今回は俵さんが今、気になる言葉について語っていただきます。
AI時代だからこそ、生きた言葉が心を動かす。俵万智さんと考える言葉の力。【Vol.1言葉をめぐる短歌編】からの続きです。
PROFILE
言葉の筋力も 日々の鍛錬から生まれる。
どうしたら言葉を豊かにし、相手と上手に心を通い合わせることができるのか。俵さんは言葉の足腰を鍛えることが大切だと言います。
「ふだんから筋肉を鍛えていれば、いざというときに走ったり、ぐっとこらえたりすることができますよね。言葉も使い方に気を使うとか、気になった言葉を調べてみるとかの訓練が必要なんだと思います。あ、いい言葉だなと思ったら立ち止まって味わってみる、その言葉に揺れた自分の気持ちを書き留めてみる。そんなことが心を敏感にしてくれるんです」
気になる言葉1
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王子さまにキツネがかけた言葉。「SNSで〝いいね〟が多くつくことが価値と言われますが、大事な人から〝いいね〟が1つつくことが尊い、そんなことを考えさせられます」
『星の王子さま』は子どものころから何度も読んでいる愛読書。今回読んで刺さったのは、この会話だった。
もちろん筋トレと一緒で、魔法のように急に言葉の筋肉がもりもりつくということはありません。日々の暮らしの中で言葉に心を寄せ、「自分の思いと言葉にズレがないかどうか点検してみたり。そんな日常の積み重ねが言葉の筋力を鍛えます」
辞書を調べて言葉を蓄えたり、本を読むことも貯金を増やすこと。でも言葉の力は語彙の多寡だけでは測れない、と俵さん。
「たくさんの絵具があれば思い通りの絵が描ける人もいる。でも鉛筆だけで素晴らしい絵を描く人もいますよね。やはりそこで大切なのは使い方なんでしょうね」
気になる言葉2
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コロナ禍のステイホーム中、俵さんがはまった韓国ドラマの愛の言葉の決定版。「私は言葉オタクだから、こんなふうに言葉を使える人をみると、めちゃ惚れてしまいます!」
「はにかみと思いやりのずらし話法」が魅力的な北朝鮮軍人と韓国の女性実業家の物語はネットフリックス配信中。
たとえば、韓国ドラマ『愛の不時着』で主人公のリ・ジョンヒョクが恋人ユン・セリに伝える言葉。
「ただの説教では彼女が素直に聞けないところを、論点をずらして『損をしたくないでしょう』と助け舟を出すジョンヒョクの優れた言葉の使い方! 相手のことをどのくらい思いやれるかで言葉は生きてくる、ということの証明のような素晴らしいセリフだと思います」
気になる言葉3
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AIが短歌を詠む時代になった。でもAIができるのは過去のデジタル情報の集積の中から言葉を探すこと。歌人で細胞生物学者の永田和宏さんは、その可能性と限界を語る。
あるテレビ番組で俵さんが目撃したエピソードがあります。娘がAIばかりに頼っていると悩んでいる父親。娘はなぜAIを使っちゃダメなのと父に迫ります。
「じゃあ好きな男の子がお前に告白する言葉をAIに考えてもらってもいいの?」と父が聞いていくと、「それはいや」との返事。
「もしいいわよって娘さんが言ったらどうしよう、と思ってドキドキしながら見ていたんですが、その返事でよかった」
この少女、実は学校のコンクールに出した標語で入選したのだとか。でもそれはAIが考えてくれた言葉でした……。
「標語の課題を出したということは、それについて思い、メッセージを伝えるためにはどんな表現が一番いいかを自分なりに考えてほしいからなんです。一生懸命標語について考える子どもは、言葉の筋肉がそこで耕されると思います。AIで標語作りはうまく乗り切れても、好きな人に気持ちを伝えるときにどれだけ自分を表現できるか。自分にしか持ちえない心を自分の言葉で伝えたいと思ったら、言葉を鍛えていくしかないんですよね」
気になる言葉4
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俵さんがときめいて、その辞典まで購入したというボディビル大会での掛け声。ユニークな表現でボディビルダーの鍛え上げられた肉体をほめまくる言葉のセンスが素晴らしい。
「腹筋が板チョコ」とか「肩に小さいジープ」とか、世界にあふれている誹謗中傷とは真逆の言葉の世界がここに。
そんな俵さんが最近ときめいたのが、甥が出場しているボディビル大会に行ったときに聞いた応援の掛け声の言葉。ステージ上の筋骨隆々の選手たちをユニークな表現でほめて、会場の雰囲気を盛り上げるのが慣習なのだそう。
「なぜこんなに感動したのか考えると、それは彼らがほめてほめて、ほめまくるからなんだと思い当たりました。今の時代にもっとも足りないのがこれじゃないか。言葉ってこういうふうに使われてこそ輝くものじゃないだろうか。だから私はこんなに感動したんだって思ったんです」
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『クウネル』2026年7月号掲載
写真/目黒智子、ヘア&メイク/内藤茉邑、イラスト/古沢有莉、取材・文/船山直子
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『クウネル』NO.139掲載
これからを生きるための「言葉の力」。
- 発売日 : 2026年5月20日
- 価格 : 1,080円 (税込)