短歌を詠んで心を探ることが人生を豊かに。【Vol.3俵万智さんが選ぶ恋の歌、子育ての歌】
歌人の俵万智さんが昨年出版した言葉をめぐる新書『生きる言葉』が大きな反響を呼んでいます。短歌の世界はもちろん、映画や演劇、ラップ音楽の言葉、ネットに氾濫する言葉、AIの出現などなど、多面的な角度から俵さんが考え、深めていった言葉への思い。そんな俵さんに聞く「言葉の力」とは。恋の歌、子育ての歌から、短歌を詠む喜びについて語っていただきました。
目 次
PROFILE
恋愛も子育ても、短歌に表現することの喜び。
誰かのちょっとした言葉が耳に残ったとき、素敵な表現だな、自分も使ってみたいと感じたとき、そんな瞬間を定着し深めるのに短歌はぴったりの表現だ、と俵さんは力説します。
「日常の中でふと気になったこと、心が動いた瞬間を短歌にするには、どんな言葉でそれを表現したらいいのか、考えますよね。自分と向き合って言葉を探すそんな時間が尊いし、言葉の筋トレにもなります」
もちろん短歌でなくても、俳句でも日記でも、あるいはラジオや新聞への投稿でもいい。自分の気持ちを探っていくその過程こそが素晴らしいと、俵さん。
千年以上前の『古今和歌集』で語られた歌の力、言葉の力。
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905年に成立したと言われる『古今和歌集』には約1100首の歌が収録されている。選者の一人の紀貫之が書いたかなの序文は和歌の本質を平明な言葉で表現した名文。
紀貫之らは『古今和歌集』を選び、醍醐天皇に奏上。その後貫之は『新撰和歌集』『土佐日記』などを残した。
日本で一番古い勅撰和歌集である『古今和歌集』のかな文字の序文に、作者で選者の一人の紀貫之が記した文章は短歌の普遍性を訴えます。短歌とは、力を使うこともなく世の中を動かし、男女の仲を和らげ、猛々しい武士の心をも慰めるものだ、と語る美しい文章。言葉ひとつで人の心も関係性も変わる。そんな力が言葉には、歌にはあるんだよ、と千年以上前に歌人は宣言したのです。
恋の歌1
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1987年、俵さんが25歳のときに出版され、歌集としては異例のベストセラーになった『サラダ記念日』。親しみやすい感覚と語り口で、短歌の裾野を大きく広げた記念碑的作品。
「若い人は自分の地味な人生なんか歌にならないって言うんですけれど、平安の昔からずっと日本人は飽きもせず恋の歌を繰り返し作ってきたんです。誰かが好きとか、一人旅が楽しいとか、世の中にいくらでも転がっているありふれた事柄でも、自分にとっては初めてのどきどきする体験ですよね。それは十分に味わったほうがいい。短歌に詠んでその体験を言葉にすると、そういう経験のひとつひとつを自分に刻むことができるんです」
恋の歌2
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「夏」「白のブラウス」という言葉に、清新な恋心が感じられる一首。誰にでもある、ありふれた感情をどんな言葉で伝えるか、千年以上前から日本人は取り組んできたのだ。
デビューして約40年、俵さんは人生の瞬間瞬間を短歌という形で表現してきました。中でもひとり息子の子育ては俵さんの歌人としての人生に大きなウエイトを占めてきたテーマのひとつ。
子育ての歌1
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「子育て中にはさまざまな『一生に一度の初めて』の瞬間に出合います。でもその瞬間はどんどん忘れていく。だから短歌にそのときの喜びを書き留めてほしいのです」と俵さん。
最近は『みんなの短歌』(マガジンハウス)という本を出版したばかり。テレビ番組の企画で、子育て奮闘中の親たちから短歌を募集したところ、大きな反響があったのだとか。それらの投稿や、子育て中の俳優やタレントさんの短歌を俵さんが読み解いていく内容です。
子育ての歌2
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都会から南の島に母子2人で移住したころ。ずっとマリオのゲームにはまっていた小学生の息子が「今は自分がマリオなんだよ」と。島を友達と駆け回る少年の姿が浮かぶよう。
「子どもが初めて歩いたとき、初めて言葉を発したとき、その感動を短歌で表現することはすごくおすすめです。子どもはどんどん成長していって、ぼやぼやしていると初めて歩いたときの感動は上書きされて忘れてしまうけれど、言葉でなら書き留めておける。子育ての体験は素晴らしいものですし、その歌は“刺身で出せる”んです。親の気持ち、喜びや発見は新鮮なものだから、焼いたり煮たり、手を加えなくても、そのままでおいしいんです」
子育ての歌3
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その息子も大学生に。母がテレビ番組に出演したとき、彼にも出演依頼があったけれど。こんなふうに、息子の成長を短歌に詠むことが俵万智さんの骨格の一部となってきた。
短歌を詠んで心を探っていくことは人生をより豊かにする大きな手立て。
「言葉という道具はみな平等にもっているのだし、短歌を詠むこと、ぜひおすすめしたいです」。俵さんの大きな瞳がきらっと輝きました。
子育ての歌4
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最新刊『みんなの短歌』に所収の、視聴者から寄せられた短歌。孤独な夜の授乳の風景が浮かぶ。同書には約1000首の投稿から俵さんが100首を選んで掲載している。
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『クウネル』2026年7月号掲載
写真/目黒智子、ヘア&メイク/内藤茉邑、イラスト/古沢有莉、取材・文/船山直子
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『クウネル』NO.139掲載
これからを生きるための「言葉の力」。
- 発売日 : 2026年5月20日
- 価格 : 1,080円 (税込)