【広瀬裕子さん】23年ぶりに京都の思い出の老舗旅館へ。ひとり、気ままに過ごす旅のたのしみ。
60代になり、暮らしやライフスタイル、生き方も次のステージへと歩み始めた広瀬裕子さん。最近はひとりで過ごす時間がとても心地よいと話します。今月からタイトルも「おとな、ひとりのたのしみ。」と一新し、住まい、暮らし、旅、食など、さまざまな視点から、ひとりだからこその大人の愉しみを綴ります。今回は京都でのひとり旅についてです。
23年ぶりに訪れた宿は、設えも心遣いも「さすが」。
この春、京都へでかけました。最近は日帰りがほとんどですが、そのときは、ひさしぶりに1泊することにしました。
その旅館にはじめて訪れたのは、30代のときです。「1度、ぜひ」と知人に勧められ、伺うことにしました。
当時は、いまのようにネット予約がなく、電話をかけての予約でしたが「意を決して」くらいの気持ちでした。京都で一番古いと言われている旅館。かつては一見さんお断り。わたしにとっては、敷居が高かったのです。
春の花がしずかに飾られています。
緊張しながら訪れた旅館ですが、居心地のよさはそれまで経験したことがないものでした。細やかなこころ遣い。かろやかな会話。時折、京都らしい辛口。設えも、お料理もすばらしかった。
「1度、ぜひ。若いうちに」と、言われたその理由がわかりました。
「春夏秋冬と来なければ、このよさはわからない」と思い、それからしばらく、その旅館には季節ごとに訪れました。
お道具とお菓子持参で友人がお茶を点てに来てくれました。お抹茶は『柳桜園』さん。
わたしが茶道に通いはじめたきっかけもこの旅館です。旅先でゆっくり過ごす大切さを教えてくれたのも。こちらが気づかないうちの気遣い。不都合があったときの対処。思い出すたび「さすが」となります。
1度、滞在中に京都の友人が車でわたしを訪ねてくれたことがあります。友人が帰るとき見送りに玄関先まででたら、その車が洗車されピカピカになっていたこともありました。友人もわたしもびっくり。
おいしいものと、お風呂と、ふかふかのお布団と。
瓦屋根の先には新緑。浴槽は高野槇(こうやまき)。
今回の滞在は、宿帳によると23年ぶりのことです。その間、家を手放し、離婚をし、何度か住まいを変えるなど、様々なことがありました。間は空いてしまいましたが、こうして再び、訪れるようになれたことがうれしい。
ある時期から、過去の思い出になっていた旅館が、これからの人生・未来のこととして再びやってきたような感じです。その日は、誕生日でもありました。
お椀の蓋をあけたとき思わず声がでた桜餅薄葛仕立のお椀。
夜は、ひとりで客室で食事をしました。部屋についてくださった担当の方と会話をしながら春の京都の食材をいただきます。気づくと、わたしは「これから」をたのしむ思いで充たされていました。
茶道友だちがお茶を点てに来てくれたり、井戸水を使ったお風呂に入りたいだけ入ったり、ふかふかのお布団でねこに邪魔されず眠ったり。
「おとな、ひとりのたのしみ」のはじまりです。
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この記事の
プレミアムメンバー
広瀬裕子
東京、葉山、鎌倉、瀬戸内を経て、現在は東京在住。執筆の傍ら空間ディレクションにも携わる。著書に『60歳からあたらしい私』(扶桑社)、新刊『50代からのグレイヘア』(PHP研究所)。
Instagram:@yukohirose19