【フランス人のエスプリを育む読書】教育関係のナディア・ル・ジャンドルさんの本と共に歩んだ人生

読書や本を眺める時間をこよなく愛するフランス人。長期に休むバカンス先が、もっぱら最大の読書タイムのよう。本の世界で旅したり、他人の人生を生きたりと、おしゃれなフランス人も本の世界で想像を膨らませています。

本の世界が、目の前で映像に変わるのが幸せ

「本は私のアイデンティティを構築してくれた大切なもの。高校を卒業してすぐに仕事を始めたため、大学で学ばなかった分、知識や教養を深めてくれたのがたくさんの本だったのです」長年、ファッションスクールで校長を務めたナディア・ル・ジャンドルさんにとって、読書の時間は静かに本の世界に没頭できる貴重なひとときです。「まるで目の前に鏡を置いたかのように、小説や詩の世界がビジュアル化して、見えてくる気がします」

読書で使うリーディンググラス。好きな言葉を見つけると、付箋を貼って書き出してみたり、本に直接思いついた言葉を記すこともあるそう。「だからこそ、お気に入りの本は、電子書籍でなく紙で読みたい」

ナディアさんの読書歴は6歳のときに始まったそうです。「学校から本が送られてきました。タイトルは忘れてしまったんですが、鳥が巣をつくる方法や、巣をつくる場所、木の枝を運ぶ様子などが描かれていた本。今から思うと、これは人生を象徴するような話でした。住む場所を選び、そこで家庭を築き、家をつくる。どこでどのような人生を送るのか、すべての選択は自分にあると、子供心にこの本から学んだ気がします」

ナディア・ル・ジャンドルさんの本棚
小さな書店並みのナディアさんと夫の本のコレクション。「整理整頓は夫が担当」。
小物と本が一緒に並べられたナディア・ル・ジャンドルさんの本棚
ナディアさんは本と一緒に小物をディスプレイするのが好き。
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本から多くを学んだという、ナディアさんの言葉を象徴したかのような体験。そこから63歳の今に至るまで、本はつねに人生の傍にありました、そんな読書家のナディアさんは、どのように作品を選んでいるのでしょうか。

「フランスのラジオ局『フランスクルチュール』で、文学の番組を担当している作家のセシル・クルーさんがお勧めする本を買うことが多いですね。すでに家に本があふれているので、最初はキンドルで読み、繰り返し読みたい、手元に置きたい、と思う本だけを買うようにしています」

書籍『ある婦人の肖像 』の表紙
『ある婦人の肖像 上・中・下』ヘンリー・ジェイムズ岩波文庫 母方の伯母に招待され、ロンドン郊外の由緒ある裕福な家庭に身を寄せたアメリカ人イ ザベル。ヨーロッパの上流社会の陶酔感の中、イタリア在住米国人との結婚から、次々 と襲いかかる試練に耐え、成長する姿が描かれた長編小説。
ナディア・ル・ジャンドルさんの私物『ある婦人の肖像 』の表紙
ナディア・ル・ジャンドルさんの私物の『ある婦人の肖像 』
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ナディアさんが手元に置きたい本として今回紹介するのが、ヘンリー・ジェイムズの『ある婦人の肖像』です。「この小説は“絨毯のモチーフ”という異名を持っています。細かな絨毯の織り柄をひとつひとつ編むように、本の中のビジュアルを紡ぐことができるんです。登場人物の性格や心の葛藤が、卓越した文章力によって表現されていて、映画のように鮮明なビジュアルで見えてくるのがたまらなく魅力的です」実際、この小説を1996年に『ピアノ・レッスン』の監督で有名なジェーン・カンピオンが映画化しています(映画タイトルは『ある貴婦人の肖像』)。

ほかにマルグリット・デュラスの『ラマン』。幼い頃、両親の離婚で傷ついたナディアさんの古傷に通じるものを主人公に感じ、30歳で初めて読んでから、たまに手に取っています。こうして多くの本から知識や経験、そして豊かな感性を受け取ったそう。「忙しい毎日の中、集中して読書ができるのはバカンス先。毎年ギリシャのザキントス島で、たくさんの本を読み、充実した気持ちで帰ってきています」

『クウネル』2023年1月号掲載

写真/篠あゆみ、久々江満(本)、コーディネート/石坂のりこ、鈴木ひろこ、文/今井恵

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