大人気の料理家、コウケンテツさんの台所には、こだわりの道具が勢揃い。しかし意外にも、料理を本格的に始めた頃から台所道具にこだわっていたわけではなかったのだとか。今回はコウさんがよい道具を使うことになった経緯をお聞きするとともに、素敵なキッチンをご紹介していただきました。
「実は最近まで、道具にこだわりなんて無かったんですよ」。 数年前までは、頂きものの包丁や、近所のスーパーで買ったフライパンで料理をしていたのだといいます。それは、コウさんのレシピを試した人が、どんな道具でも同じようにおいしく作れるように、との思いから。だから、コウさんがこだわっていたのは、安いテフロンフライパンでも、おいしく肉が焼けるとか、そういうこと。
でも、道具を作っている職人さんに取材をする機会が増えるにつれ、考えは少しずつ変わってきました。「職人さんが長年の仕事で培ってきた最高の技術や、代々受け継いできた伝統みたいなものを注ぎ込んだ道具はやっぱりすごい。そういう道具を使いこなせる料理人になりたいと思うようになったんです」。道具集めを楽しむようになったのはそこからです。
「使う度に、作った人や売っているお店のご主人の顔が浮かんだり、作業風景を思い出したり……。物のひとつひとつにバックグラウンドがあるのが、よい道具を使う楽しさ。でも、どこでも買える道具の便利さ、気軽さの魅力も大切だと思っています」。
こう・けんてつ
料理家。韓国料理はもちろん、和洋中と多ジャンルでおいしい料理を作り出す。食育などの講演会も多数。本人曰く「どんなに大きな会場でも緊張しない」そう。
『ku:nel』2016年11月号掲載
写真 松村隆史/取材・文 鈴木麻子