大切に作り続け、その作り手の代名詞ともいえるメニュー、それが「スペシャリテ」。高吉さんにとっての「スペシャリテ」はキャロットケーキでした。ネットやSNSでも話題の「バズりスイーツ」です。今回はそのレシピが誕生するまでの物語を紹介していきます。レシピ編と併せてお楽しみください。
▼レシピ編▼
【キャロットケーキ】辿り着いた黄金配合のレシピです。
求めた味に向かって、ひとつも妥協せずに。
焼き菓子は普段着のおやつ。「紹介するレシピはなるべく、手に入れやすい材料で作れることを意識しています。けれど、このケーキだけは特別。お菓子研究家として、おいしさだけを率直に追求しました」。砂糖は 2種類、ふくらし粉も2種類。もちろん、1種類ずつでもそれなりにはできるのです。いつもは〝作る人が、気負いなく作れるように〟と、心を砕く高吉さんにしては、頑ななこだわり。 「もともと、野菜をお菓子に入れるの ですら、好みではなかったんですよ。 ところが、4年ほど前に初めてチーズ フロスティングがのったキャロットケーキを口にしたとき、衝撃を受けたんです。『この奥深さは、にんじんを使わなければ出せない味だ』って」
スパイス、ナッツ、ドライフルーツ に、にんじんの香りと甘さが寄り添う。どれをないがしろにしても、バランスがくずれてしまうから、少しずつ分量や素材を変えて、試作を重ねました。
「はじめから、おいしくはできたんです。でも、何かぼんやりしている。いつもの試作とは、どこか勝手が違うんです。毎回、及第点ではあるけれど、決め手がない状態が続きました」
深みのある味と色がほしいから、ベ ーキングパウダーだけでなく、重曹も 使う。にんじんの風味と相性がよさそうだから、コクのあるマスコバド糖を 混ぜてみる。ようやく現在のレシピにたどり着いたとき、口にした途端、「あ、 これだったんだ」と腑に落ちました。
自信作として教室で披露したり、知り合いに振るまったりするうちに、 〝高吉さんのキャロットケーキ〟は、いつしか評判を呼ぶようになります。 「このケーキがきっかけで、野菜のお菓子のレシピを出版することになりました。あんなに、『野菜をお菓子に入れ なくてもいい』なんて思っていたのに」
その野菜だからこその、おいしさを探りあてる。それは、これまでのレシピ作りとは違う、お菓子との新鮮な向き合い方でした。お菓子を仕事と決めて、20 年あまり。夢中になっておいしさを追求したキャロットケーキは、今まで知らなかった新しい扉を開く後押しをしてくれたのです。
たかよしひろえ
「ル コルドン ブルー パリ 校」にて製菓修了証を取得。 同校でのアシスタントを経 て、5つ星ホテル「クリヨン」などでの経験を積む。 著書に『やさいの焼き菓子』 (文化出版局)など。お菓 子教室「tiroir」主宰。 https://www.instagram. com/tiroir/
『ku:nel』2018年3月号掲載
写真 有賀 傑 / 取材・文 福山雅美 / 編集 鈴木麻子
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