大川雅子さんの代表菓子・スペシャリテ/物語編。【バナナブレッド】若き日に出会った大切な味。

大川雅子

大切に作り続け、その作り手の代名詞ともいえるメニュー、それが「スペシャリテ」。大川さんにとっての「スペシャリテ」は30年以上も昔に出会った懐かしのバナナブレッドでした。今回はそのバナナブレッドのレシピが誕生するまでの物語を紹介していきます。レシピ編と併せてお楽しみください。

▼レシピ編▼
【バナナブレッド】30年以上作り続けるシンプルだけど奥深い味。

若き日に出会ったワンボウルケーキ

大川雅子
ケーキ
青山・骨董通りに面している「APOC」のキッチン。
長年使い込まれた道具が並ぶ。

大川さんのバナナブレッドのはじまりは、30年以上も昔、ぺらっと目の前に置かれた1枚の紙。

「当時、バイトをしていた店で、『これ、ちょっと焼いてみてよ』ってメモみたいなものをふいに渡されたんです」

店は、今はなき老舗雑貨店「デポー 39」。メモを渡したのは、カントリーアンティークを日本に広めたことで知られる、故・天沼寿子さん。ニューヨーク帰りの彼女は、現地で食べたあの味を、もう一度味わいたいというのです。

大川雅子
ケーキ
バナナブレッドに使うバナナは、しっかり熟したものを。目安は、「キリンみたいな斑点が出るまで」。フックにぶら下げて頃合いを見る。使用するのは、エクアドル産の有機バナナ。売上の一部が、子ども支援専門の NGO 団体に寄付される。


「そのメモも、いい加減でね。読みづらい英語の筆記体だし、かなり前のレシピだっていうし。しかも、『簡単だから、私にも焼けるくらいだ』なんていうの。なのに、私に『作って』って」

その名前は、バナナケーキではなく、 バナナ〝ブレッド〟。おやつにも朝ごはんにもなるような、アメリカらしい素朴なクイックブレッドのレシピでした。とりあえず、食べたことも見たこともないものを、メモを頼りに焼き上げます。渡されたレシピは、バターではなく植物油。小麦粉は、グラム単位ではなく、カップでのざっくり計量でした。出来上がったのは、何やらふわふわした、蒸しパンみたいなもの。とはいえ、〝本物〟を見たこともないのですから、それが正解なのかは謎のまま。それでも、天沼さんは口にして、「そう、これよ! 懐かしい!」と喜んでくれました。そこから、現在のレシピに至るまで、レシピの調整は7〜8回。

自分もほかの人も、だれでも簡単に作れるレシピにしたかったので、覚えやすい配合、作りやすい手順を目指しました。
「このおおらかなクイックブレッドこそ、まさに、私がずっと言い続けている〝ワンボウルケーキ〟のはじまりだったんですね。作り方も材料も、すごくシンプル。当時住んでいた家の小さなキッチンでも、十分に作れるほど」

大川雅子
ケーキ
お店にバナナブレッドが出るかは、タイミング次第。「バナナの都合に合わせて、なのよ」。楽しみにしている常連が多く、並ぶと次々と売れていく

そこから30年。バナナがいい具合に熟したときにだけ、焼き続けてきたバ
ナナブレッド。おすすめの食べ方は、トースターでこんがり焼いて、バターをたっぷり。バナナの甘さとバターの塩気のバランスを楽しむ味わい方も、かつて天沼さんに教えてもらった、そのままです。

大川雅子
焼き上がりの合図は、オーブンから漂う香り。「ボウルで混ぜていくだけの焼き菓子だから、気軽な気持ちで作って。細かいことなんて気にしなくても、おいしくできるんだから」

大川雅子さんのスイーツがいただけるお店

『ku:nel』2018年3月号掲載

写真 加藤新作 / 取材・文 福山雅美 / 編集 鈴木麻子


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