大切に作り続け、その作り手の代名詞ともいえるメニュー、それが「スペシャリテ」。内田さんにとっての「スペシャリテ」はプリン。ネットやSNSでも度々紹介されている「バズりスイーツ」です。今回はそのプリンレシピが誕生するまでの物語を、紹介していきます。レシピ編と併せてお楽しみください。
▼レシピ編▼
【プリン】多くの人をトリコにした大きなプリン。
味わう人の歓声に
後押しされて。
誰もが、幼い頃から慣れ親しんだ味。お皿にぷるんとのった姿も どこか愛嬌があって、その完璧な姿を くずすのが惜しいと思いつつ、ひと口、 ふた口。でも、あっという間にお腹におさまって、いつだって、「もうちょっと、食べたかった」と切なくなる存在。
小さな頃の内田さんも、そんなプリンが大好きでした。みんなを笑顔にする、この気取らないおいしさ。もしも大きく作れたら、もっと喜んでくれるはず。はじめは、そんな気持ちから、 大きな型で焼きはじめました。
「これをお持ちすると、その大きさに、『わーっ』と歓声が上がります。子どもだけじゃなく、大人も無邪気に喜んでくださいます。何か集まりがあると『あのプリンが食べたい』とリクエストされることが多くなって。召し上がった方が『あのプリンはおいしかった』なんていろいろなところでおっしゃってくださるので、みなさんの期待値が上がってしまって。うれしいけれど、ちょっとドキドキします。だって、 基本的な、ごく普通のプリンですから」
イメージしたのは、フランス菓子〝クレーム ランヴェルセ〟のとろけるよ うな口どけ。それでいて必要なのは、型から外したときにきちんと立つ凝固 性。素材がシンプルゆえに、ちょっとした配合の違いが、完成に大きく影響します。卵とミルクの量、オーブンの 温度と時間を細かく測りながら、現在のレシピにおさまりました。
「砂糖の量は、作りはじめた頃よりも 少しずつ減っていますね。卵の量が一 般的なレシピよりも多いので、甘さは 強くなくても、そのコクで、満足感があるんだと思います。実は、生クリー ムをそのまま食べるのが苦手なんです。 そんな理由で、このプリンはホイップ クリームなどを添えなくても、プリンだけで満足できる、それでいて飽きのこない味わいを求めました」
以前は、古典的なレシピに則ってグラニュー糖を使っていましたが、今は、より穏やかな甘さのきび砂糖に。ホイップを絞ることなく、フルーツを添えることもない、どこか懐かしさを漂わせる大きなプリン。それは幼い頃に夢見た、イメージそのままの姿です。
うちだまみ
書籍、雑誌、広告など幅広 くレシピを提案。大の旅好き、台湾通としても知られ る。著書に『洋風料理 私 のルール』など。台湾ガイド『私的台湾食記帖』、『私的台北 好味帖』(以上、アノニマ・ スタジオ)も人気。
内田真美さんのお菓子の集大成!
『私の家庭菓子』が話題です。
私の家庭菓子
内田真美さんが長年大切に作り続けている厳選41品を掲載。お店では売っていない伝統菓子、長年作り続ける定番菓子、季節の果物を味わうデザートなどとっておきのレシピ集です。シンプルななかに奥深さのあるレシピ、美しい写真、装丁、読み応え満点の177Pと、「お菓子のレシピ本はこれさえあれば」と思えるお菓子レシピブックの決定版です。
『私の家庭菓子』(アノニマスタジオ)
『ku:nel』2018年3月号掲載
写真 有賀 傑 / 取材・文 福山雅美 / 編集 鈴木麻子
●そのほかの「スペシャリテ」の記事
◎大川雅子さんの代表菓子・スペシャリテ/物語編。【バナナブレッド】若き日に出会った大切な味。
◎大川雅子さんの代表菓子・スペシャリテ/レシピ編。【バナナブレッド】30年以上作り続けるシンプルだけど奥深い味。