【映画と本で、人生観を整える】東直子さんが案内する、石牟礼道子の世界。「文学としてのすごみ、力強さを感じます。」

東直子さん

悩んだときや心が揺らいだ時、活字を読むことは効果的です。そういったときこそ、作者の言葉ひとつひとつが重みを持ち、語りかけてくるように感じるもの。今回は、歌人、小説家の東直子さんに、愛読する石牟礼道子さんの世界を紹介していただきました。石牟礼さんの故郷水俣病を題材にしたものから、家族への想いを綴った歌まで、様々なものがあります。圧倒的な語り口と気持ちの良いリズム感を感じられる作品達です。

 

ずっと大切にしている、あの本、あの人の言葉。

本を読むことは、忘れがたい言葉や物語、それを記した書き手との、活字を通した出会いでもあります。本好きの4人に聞いた、記憶に刻まれたあの人のあの言葉。


歌人・小説家の東直子さんが好きな、
石牟礼道子さんの言葉。


「白き髪結はへてやれば祖母(おほはは)の狂ひやさしくなりて笑みます」

「あっけらかんの舗道(みち)かわくとき いれかわる白髪なびく老婆とわれと」

——『石牟礼道子全歌集 海と空のあいだに』

海と空のあいだに 石牟礼道子

10代のころから短歌を詠んだ石牟礼さんの未発表作品を含む670余首を収録。東さんがその中から選んだ上の2首は、ともに、石牟礼さんにとって忘れがたい存在だった祖母を詠んだもの。認知症を抱えた祖母と自分が入れ替わる、自分が祖母だったのかもしれないという感覚が石牟礼さんらしい。 『石牟礼道子全歌集 海と空のあいだに』 弦書房2,600円


「陸(おか)に打ちあげられた魚んごつして、あきらめて、泪ためて、ずらっと寝とるとばい。
夜中に自分がベッドから落ちても、看護婦さんが疲れてねむっとんなさるときは、そのまんまよ。
晩にいちばん想うことは、やっぱり海の上のことじゃった。
海の上はいちばんよかった。
春から夏になれば海の中にもいろいろ花の咲く。
うちたちの海はどんなにきれいかりよったな。」

『苦海浄土 わが水俣病』——「ゆき女きき書」より

苦海浄土 石牟礼道子

石牟礼さんの名を一躍有名にした 代表作。聞き書きの体裁であるが、 厳密なノンフィクションではない。水俣病の患者さんの体に入り込んで、あたかも憑依したかのように彼らの声、言葉を雄弁に語りつくす。公害に侵される前の海の美しさ、病を得た人々の思いが優しく、同時に圧倒的な語り口で表現される。 『苦海浄土 わが水俣病』 河出書房新社4,100円


「春の山野は甘美で不安だが、秋の山の花々というものは、
官能の奥深い終焉のように咲いていた。
春よりも秋の山野が、花全体の持つ性の淵源を香らせて咲いていた。
女郎花(おみなえし)、芒(すすき)、桔梗(ききょう)、萩(はぎ)の花、葛(くず)の花、 よめなの花、つわ蕗の花、野菊の花。」

『椿の海の記』——「岬」より

椿の海の記 石牟礼道子

水俣で育った石牟礼さんの少女時代、家族や自然の風景の豊かな記憶がかかれた散文集。東さんは上記の一文に「しびれました。春の山野を擬人化して、可愛い少女にたとえることは誰でもするけれど、ほとんど官能小説のような鮮やかなイメージ。昔語りのような気持ちのいいリズム感は石牟礼さんならではです」 『椿の海の記』 河出文庫850円


石牟礼道子さんといえば、熊本県 でいまから数年前に起きた害病である水俣病について書いた『苦海浄土』が代表作。工場が垂れ流した有機水銀の中毒によって悲惨な病気に苦しめられた漁村の人たちの悲しみを告発した本として有名です。

「確かに石牟礼さんは告発の立役者と思われてきましたが、それ以上に文学としてのすごみ、力強さを感じます。人々の営みと自然の美を丁寧に情熱的に書いていらっしゃいます」何よりも、自らの地元でもある熊本弁そのままで書かれた文章の生々しさ。患者さんの体に自分をまるごと一体化させ、その人の心情や記憶を〝いたこ〟のように語る、その語り口に東直子さんは引き付けられるのです。

最近出版された全歌集も素晴らしい、と東さん。「一人息子や夫への思い、石牟礼さんが少女だったころの故郷の人や風景が率直に歌われていて、おすすめしたいです」

●カルチャーに関する記事、他にもいろいろ。
◎ 今週末に読みたい本。作家・川内有緒さんがパリの国連で働いた日々を描いた1冊【#わたしジャーナル】
◎ローカルだけどモダン。暮らしがもっと愛おしくなる。「民藝の100年」開催中
◎おかえり、私たちの青春!ABBA(アバ)が40年ぶりにアルバムリリース。一瞬で「あの頃」に戻れる音楽にキュン。

『ku:nel』2020年9月号掲載

取材・文 丸山貴未子、船山直子

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