【”あきらめ”がキーワード? 一田憲子さんの大人の片づけvol.6】手にした幸せを、ひとりで握り締めないようにすると…

一田憲子

編集者・一田憲子さんの新刊『大人の片づけ できることだけやればいい』(マガジンハウス刊)が話題です。発売早々に重版がかかったそのわけは、片づけ本にはあまりない大らかさゆえ?!

自身を「面倒くさがり」で「三日坊主」と評する著者の気ままな片付け術は、どんな人でも「あなたでもできます」と受け入れてくれる柔軟さがあります。そして、一見「片づけ本」のようでありながら、人生の後半を心地よく生きるための指南書でもあるところが本書のみそ。読んだ後から、やる気が沸きおこり、自分の暮らしに風を通すヒントが見つかるはずです。連載第六回目は、人間関係の片づけについて。

■人と人との関係を片づける

人生後半に見直すトピックの中に、「人づきあい」があります。「歳を取ったら、もう誰かに合わせることをやめて、本当に気の合う人とだけつきあえばいい」とよく聞きます。確かにそうだ! と思う反面、「本当にそれでいいのかな?」と感じてきました。仕事を引退し、子供が独立し、ふと見渡すと、自分 の周りにいる人の数がぐっと減ってくる。そんな時寂しくないのかな? と思ってしまうのです。とは言っても、煙たがられながら、若い人の集まりに顔を出すのもイヤだし……。

たぶん、私はおばあさんになっても、「ねえねえ、イチダさん、これはどうしたらいいと思う?」と誰かに聞いてほしい。いくつになっても誰かの役に立っていたいのだと思います。ずっと「私は明るく閉じている人だから」と、パーティに参加することもなく、積極的に友達をつくるタイプでもなく。そんな自分が、「人」を求めているなんて、思ってもみないことでした。でも、どんな人でも心の奥底に、この小さな願いが潜んでいるんじゃないかなあ。 若い頃「私はここにいます! 誰か私を見つけて!」と思いながら仕事をしてきました。仕事で認められたかったし、評価が欲しかった。「ねえ、ねえ、 見て見て!」と、何かを得ることばかりを考えてきた気がします。 でも、それだけでは人間関係がうまく回らない、ということがわかってきま した。評価だけを求めていた頃、私は願わくば「ひとり勝ちしたい」と考えていたのだと思います。何か「いいこと」を知ったり、手に入れたりしたら、内緒にしておき、ここぞというときに披露して「ほ〜っ」と言われたい……と姑息なことを考えていました。

一田憲子
仕事で知り合った、ミシンで絵を描く作家「Nutel」こと渡邊笑理さんの作品。

そんな時期を経て、ここ数年周りを見渡すと、生き生きと仕事をしている若い友人、知人たちはみな、自分の手にしたものをひとりで抱え込むのではなく、 「ねえ、ねえ、こんな素敵なものを見つけたよ」「あなたの仕事にも役立つんじゃない?」とすぐに隣にいる人へパスしていました。私にも、そのパスが回って きて、「え? そんなことしてもらっていいの?」と戸惑ったことを覚えています。そして、それが嬉しくて、今度は自分がいいものを見つけたら、「ねえ ねえ」とパスを返したくなりました。

そして、やっと人は「ひとり勝ち」では幸せになれない、ということに気づ くことができた気がします。手にしたものは、ひとりで握り締めないで、みんなに循環させてこそ、みんなでハッピーになれる……。そう考えると、「閉じている」とか「開いている」なんて、どっちでもいい、と思うようになりました。楽しそうなことをやっている人を見つけたら、気軽に声をかければいいし、 自分がワクワクしたら、たまたま隣にいる人に語りかければいい。人と人の関係は、頭で考えてつくるものではなく、自然でありのままなものなのかも。

人生後半に「人づきあい」をもう一度考え直したくなるのは、もっと自由にラクに人との時間を楽しむため。そのために必要なのは「自分だけが得をする」 という知らずしらずに自分にこびりついた考えを、引っ剥がすことなのかもしれません。

撮影 黒川ひろみ

※本記事は『大人の片づけ できることだけやればいい』(マガジンハウス刊)からの抜粋です。

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