ものや経験に風を通して、「循環」を引き起こそう【”あきらめ”がキーワード? 一田憲子さんの大人の片づけ③】

一田憲子

編集者・一田憲子さんの新刊『大人の片づけ できることだけやればいい』(マガジンハウス刊)が話題です。発売早々に重版がかかったそのわけは、片づけ本にはあまりない大らかさゆえ?!

自身を「面倒くさがり」で「三日坊主」と評する著者の気ままな片付け術は、どんな人でも「あなたでもできます」と受け入れてくれる柔軟さがあります。そして、一見「片づけ本」のようでありながら、人生の後半を心地よく生きるための指南書でもあるところが本書のみそ。読んだ後から、やる気が沸きおこり、自分の暮らしに風を通すヒントが見つかるはずです。連載第三回目はどうしても捨てられないと思っているものや思い出について。

■永久保存版の本を手放す

今年になって、大量の本を処分しました。今まで毎年年末に本棚の整理をして、そのたびに不要な本を、本のチャリティシステム「チャリボン」を利用して減らしてきました。幾度もの「チャリボン行き」を免れて、ずっと本棚に残り続けてきた本は、20代の頃、魂を削られるような思いで読んだ小説や、擦り切れるほど繰り返し読んだ、憧れのスタイリストさんのエッセイなど……。でも、今回はそんな「永久保存版」と思っていた本も、「えいやっ」とすべて処分することにしたのです。どの本にも思い出がいっぱい詰まってはいるけれど、 再び開いて読み返すことはきっとない、と判断したから……。

人生の後半に向けて、風通しよく生きたい、と考えた時、いちばん効果的な方法が、「これは絶対に大事!」と思い込んできたものを「本当にそう?」と問い直してみることなのではないかと思います。

若い頃から今まで、私にとって大事なことのナンバーワンは、「人に褒めてもらうこと」でした。いくら「自分のご機嫌は自分で取らなくちゃ」と言われても、だ〜れも褒めてくれなかったら、やっぱりつまらないと思うのです。ただ、褒めてもらえばニコニコし、褒めてもらえなかったら、どよ〜んと落ち込む。そんな自分のコントロール外にある軸で、ジェットコースターのように上下する気分と付き合うことは、かなりしんどいということもわかってきました。

一田憲子
読み終わった本は、取っておかない、と決めた。

いつか仕事がまったくなくなった時、つまりは誰かに「評価される」という舞台から降りた時、私はいったい何を楽しみに生きていくんだろう? と考えるようになりました。おいしいものを食べる。小さな居心地のいい部屋をつくる。ゆっくり旅に出て、知らない町で夕焼けを見る……。あれこれリストアップするうちに、なんだか楽しみになってきました。「評価」というものの外側にある暮らしって、いったいどんなものなんだろう? そこには何があるのか見てみたい! 若い頃から、いろんな経験を蓄積して、それを力に次に進むことばかりを考えてきました。でも、これからは、いかに経験を手放すかが大事になってくるのかもと思っています。コツコツと積み重ねたことに頼るのでなく、実はまったく違う場所の隅っこに隠れているまだ気づかぬ何かを拾ってみる……。

目的にむかってまっしぐらに走ることしか考えられなかった時期を経て、 ちょっと脇道にそれ、寄り道ができるようになった昨今。そこで、見つけた小さな花を手にした時、ようやく私は「褒められないと気が済まない」という呪縛から解き放たれるかもしれません。

今回本を大量に処分する際、 1冊1冊を手にしながら「ああ、あの頃はこうだったなあ〜」といろんなことを思い出しました。でも、整理整頓Dayまで、 この冊が本棚の隅っこにあったことさえ忘れていたのも事実です。家の中にも、心の中にも、こんな風に「これは大事」としまい込み、なのに「そこにあること」さえ忘れているものがたくさんあります。それを掘り起こしては手放す。片づけの役割は、ものや経験に風を通して、「循環」を引き起こすことのような気がします。

撮影 黒川ひろみ

※本記事は『大人の片づけ できることだけやればいい』(マガジンハウス刊)からの抜粋です。

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