【対談】ヤマザキマリ×中園ミホが語り尽くす“人生になくてはならない映画”とは?【前編】

漫画家・文筆家として活躍するヤマザキマリさんと、脚本家の中園ミホさん。書くことを生業とし、シングルマザーで息子を育てるという共通点を持つ、映画好きのおふたり。人生の支えとなった作品について語りつくします。

PROFILE

ヤマザキマリ/やまざきまり

漫画家・文筆家・画家。東京造形大学客員教授。2010年『テルマエ・ロマエ』で第3回マンガ大賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。

中園ミホ/なかぞのみほ

1959年生まれ。脚本家。執筆作は『やまとなでしこ』『Doctor-X〜外科医・大門未知子〜』など多数。2025年放送のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の脚本を担当。クウネル・サロンの『福寿縁うらない』も好評。新著に『強運習慣100』。

2人の心を満たしてくれた名画たち

中園さん(以下敬称略)

私、最近の映画観てないんですけどヤマザキさんは?

ヤマザキさん(以下敬称略)

はい、古い映画が大好きで。
トーキー映画、いや下手したらリュミエール兄弟(映画発明者)からです。

中園

古過ぎます(笑)。好きな作品はまず……『男と女』です。個人的にとても大切な映画。母と映画館で観たのは10歳で、いきなり大人の世界を覗いたような感じ。映画館の暗闇でドキドキしていた憶えがあります。思い返すと、母は父を亡くした直後。映画は最愛の夫を失った女の人が、再び恋愛できるかという内容で、母もそういう気持ちで見ていたのかなとのちに思いました。音楽も素敵でした。

ヤマザキ

親の影響ってありますね。

中園

ええ、母の影響は大きいです。ディズニーも東宝の駅前シリーズも、いろいろ連れて行ってくれたけれど、一番強烈。脚本家になってからは傑作の映画とか観ちゃうと、落ち込んでその後仕事できなくなるんですが、『男と女』なら知ってるから安心。朝まで仕事したりして疲れたときビールを飲みながら観ると脳が静まっていきます。好きな音楽を聴くように繰り返し。

10歳で母と観た、大人の世界にドキドキ

『男と女』(1966)

共に過去の失恋を背負う二人が、新しい愛を求める切なくて美しいラブストーリー。第19回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、当時無名だったクロード・ルルーシュの出世作となった。「映画の舞台となったフランス・トーヴィルに、旅をしたこともありました」

ヤマザキ

同じ頃の映画だけど『真夜中のカーボーイ』はぜんぜん毛色の違う映画。衝撃でした。私は80年代に17歳でイタリアに留学したんですが、日本で言えば安保のような動きが学校であって。政治思想を何も持たない私は「日本っていいな、お前みたいに何も考えなくても生きてけるんだ」とかよく言われたけど、芸術家たちの間で何かと影響を受けていました。その頃付き合っていた詩人が、とにかく観ろと。18の時です。ジョン・ボイト演じるジョーは自分の存在証明をはかるべくやってきたNYで挫折して、一番避けて通りたい存在としてのダスティン・ホフマン演じるラッツォに出会います。私ラッツォに恋心を抱いてしまって。

中園

わかる!私もです。

ヤマザキ

客観的にジョーに自分を重ねたんです。実際自分は明日食べるものもなく電気水道みんな消されてる、壊される寸前のビルに住んでる映画の2人といろんなことが重なって。

中園

『真夜中のカーボーイ』は淀川長治さんの日曜洋画劇場で観ました。ラッツォに恋しちゃうと悲しい……。

ヤマザキ

いたたまれなくて見終わっても20分ぐらい立ち上がれなくて。本当に不条理、理不尽なんだけど、残るのは悪い感動じゃなく、これを糧に私は生きていかなきゃと思いました。

イタリア留学中の18歳の私が重なって

『真夜中のカーボーイ』(1969)

富を追うためにニューヨークへやってきたテキサス出身のジョー(ジョン・ボイト)が、偶然出会ったラッツォ(ダスティン・ホフマン)。不遇な人生を送ってきた2人の若者が大都会で孤独を癒し合う。アカデミー賞三冠受賞作。「詩人の薦めで、最初はテレビで、さらにビデオレンタルもして観ていましたね」

中園

18歳でそれってすごい。私はラッツォが漏らしてしまうところが切なくて。『蜘蛛女のキス』もそんなシーンがあるんだけど、やっぱり焼きつきます。どっちもきれいにしてあげるの。

ヤマザキ

そう究極の愛は下の世話です!同じくバディものの『兵隊やくざ』はコロナ禍に一気見しました。それまで旅行で価値観の違うものを見て栄養にしてた代わりに縦軸移動しようと古い映画をたくさん観てたんです。

中園

この映画はスカッとしますね。主演の勝新がチャーミング!

ヤマザキ

力をもらえますね。勝新が有田上等兵殿を大好きでうまい具合に危機をかわして支えていく。この凸凹感、二つで一つの力になるのがいいんです。私の好きなの、全部2人で1つっていう映画。2人が何かを生む?

ヤマザキ

『蜘蛛女のキス』はほぼ2人しか出てこないですよね。

ヤマザキ

詩人から私は物事を知らないと常に罵倒されて。そんな関係性と共通点を感じたのかな?映画の獄中では活動家ヴァレンティンはだんだん妄想の方に入っていき、ゲイのモリーナは彼に言われるまま思想に洗脳されて……。インテリのヴァレンティンの恋人はいい家庭環境の人だけれど本当の本能と感受性が求めていたのは、実はモリーナの愛情、という覚醒の話かなと。

中園

最後、妄想か幻想なんだろうけど、女の人と逃げたのに疑問が残って。

ヤマザキ

原作は違うんですよ。完全に現実から離脱した世界観に達したと表したかったのかも。

中園

そういうのがわかっちゃうところがただの映画ファンじゃない。

ガチの愛情と覚醒の物語

『蜘蛛女のキス』(1985)

南米の刑務所。政治犯ヴァレンティンと同性愛者モリーナが同じ房で過ごすことになる。当初モリーナを毛嫌いしたヴァレンティンだったが、映画の話題を中心に互いに心を通わせていき……。「もともとマヌエル・プイグの原作を読んでいました。監督はブラジル人のヘクトール・バベンコ。サンパウロで撮影されていてすごくいい感じに!」

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赤ん坊のような勝新がかわいい

『兵隊やくざ』(1965)

舞台は第二次世界大戦中、関東軍に入隊した元やくざの大宮貴三郎(勝新太郎)。破天荒な性格が問題を生むも、指導係の有田上等兵(田村高廣)が支えとなり絆を深める。シリーズ全9作の1作目。「ばんつま(阪東妻三郎)の作品を追っていたら息子の田村さんにたどり着いて。監督の増村保造はフェリーニの助監督!」

『兵隊やくざ DVD-BOX 新価格版』 2万350円 発売・販売元:KADOKAWA

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『クウネル』1月号掲載 写真/輿石真由美、ヘア&メイク/三上宏幸(中園さん)、田光一恵(ヤマザキさん)、取材・文/原 千香子、編集/河田実紀、久保田千晴

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『クウネル』No.124掲載

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