【京都の名喫茶/前編】バターとろけるホットケーキや宝石のようなゼリー。本とともに味わって。

京都喫茶店アイキャッチ

物語を生き生きと彩り、著者の日常を伝える京都の名喫茶案内。作家たちが愛した空間と美味を、彼らの言葉とともに味わいたい。

スマート珈琲店_コーヒーとホットケーキとタマゴサンドウィッチ

スマート珈琲店

片岡義男の短編に登場する、「スマート珈琲店」の内装はスイスの山小屋風。

スマート珈琲店

作中に大人の男性2人が京都で落ち合い、同店のコーヒー、ホットケーキ、タマゴサンドを注文し、純な味わいに感嘆するシーンがある。

「余計なものがない」、純で真っ直ぐな味。

短編集『ジャックはここで飲んでいる』に収録の「五月最後の金曜日」で作家の萩野が訪れるのが「スマート珈琲店」。フリーライターの友人・瀬川と〈純な感触があります〉〈余計なものがないよな〉と語り合いつつ、バターとシロップがとろけるホットケーキを平らげます。同時にふわふわの卵焼きを挟んだサンドウィッチも1皿を分け合いつつ完食。

3代目店主の元木章さんが語る、「流行りを追うのではなく、これというものに磨きをかけてきた」 ーー真っ直ぐなおいしさが行間から伝わってきます。味の要となるコーヒー豆の焙煎とホットケーキの生地づくりはスタッフに任せず店主が担当。そのため、いつ訪れても「ああ、この味」と感じられるのです。

スマート珈琲店

男女がコーヒーと会話を楽しむ意匠は、創業者の元木猛さんが考案。

スマート珈琲店

年季の入ったコーヒー缶が90余年の歴史を物語る。

スマート珈琲店

地元の人々と旅人が絶え間なく行き交うガラス張りの入口。

スマート珈琲店

ドイツ製の焙煎機、プロバットは4代目。

書影『ジャックはここで飲んでいる』片岡義男

お店が登場する本

『ジャックはここで飲んでいる』
片岡義男

しゃれた大人の会話と美味、何気ない街の風景に彩られた短編集。作中では萩野と瀬川が三条〜四条界隈を散策しつつ、いくつかの京都の名店に立ち寄る。文藝春秋

スマート珈琲店

住:京都市中京区寺町通三条上ル天性寺前町537
営:8:00〜19:00(L.O.18:30)
休:無休 ※ランチタイムは2階で洋食提供(火曜定休)
https://www.smartcoffee.jp

喫茶ソワレ_コーヒーとゼリーポンチ

喫茶ソワレ

半世紀前から愛される名物ゼリーポンチと、東郷青児画のカップで提供されるコーヒー(1階席のみ)。

喫茶ソワレ

多くの文化人が立ち寄った1階席。

蒼くきらめく、宝石のような言葉とゼリー。

〈珈琲の香にむせびたる夕より夢見るひととなりにけらしな〉ーー80年近く愛される老舗・「喫茶ソワレ」に到着したら、扉左横の碑に刻まれたロマンティックな短歌を味わってから入店を。創業者・元木和夫さんが歌人の吉井勇に歌碑の相談をしたところ、第一歌集の『酒ほがひ』からこの歌を自ら選び、揮毫(きごう)したのだそう。

「父・英輔に代替わりしてからも、吉井先生はいつも祇園から舞妓さん芸妓さんを引き連れ、立ち寄ってくださったと聞いています」と語るのは、創業者の孫で3代目となる下山純子さん。フランス語で「夜会、素敵な夜」を意味する店名通り、明るい午後に訪れても、独特の蒼い照明と静寂が夜の夢幻へと誘ってくれます。

喫茶ソワレ

吉井勇自筆の歌碑。

喫茶ソワレ

入り口は意外にも、新しもの好きの創業者が導入した自動ドア。

書影『吉井勇全歌集』 吉井勇

お店が登場する本

『吉井勇全歌集』吉井勇

祇園を愛した歌人、近代短歌の巨星・吉井勇が晩年近くに、それまでの自作から代表作として2402首を選んだ歌集。紹介した「酒ほがひ」も収録。中公文庫

喫茶ソワレ

住:京都市下京区西木屋町通四条上ル真町95
営:火水木金 13:00~19:00(L.O.18:00)、土日祝 13:00~19:30(L.O.18:30)
休:月曜(祝日の場合も休業)
https://www.soiree-kyoto.com

イノダコーヒ_アラビアの真珠とビーフカツサンド

イノダコーヒ

コーヒー・アラビアの真珠と、池波が通った時代から変わらぬ味わいのビーフカツサンド。

イノダコーヒ

本館は京の町に溶け込む町家風の外観。

激変する時代に“むかしのまま”である価値。

池波が〈格別に特種な味わいがするのではない。しかし理屈なしに旨い。〉と絶賛し、京都を訪れるたびに一度は立ち寄ったという「イノダコーヒ」。定番の「アラビアの真珠」は1978年発売で、あらかじめミルクと砂糖を入れて提供されるスタイル。また、軽食の中で最も好んだのがサンドイッチで〈駅弁などには見向きもせず〉、東京へ戻る列車内に持ち込んで食べるのを楽しみにしていたとか。

〈冷えた缶ビールと共に味わうたのしみは、何ともいえない。〉ーーそんな記述から浮かぶのは、揚げたてのビーフカツサンドに豪快にかぶりつき、ビールをグビッとひと口、そんなご満悦の姿。文豪のスタイルに倣って、京のおいしい余韻に浸ってみたい。

イノダコーヒ

開店当時の雰囲気を体感できるメモリアル館。

イノダコーヒ

創業者は画家で店の意匠も手掛けた。

『むかしの味』池波正太郎

お店が登場する本

『むかしの味』池波正太郎

いわずとしれた時代小説・歴史小説作家による、食エッセイの古典。世の中が新奇な味を求めていたバブル期に、独自のダンディズムを貫き、昔気質の味を讃えた。新潮文庫

イノダコーヒ本店

住:京都市中京区堺町通三条下ル道祐町140番地
営:7:00~18:00(L.O.17:30)
休:無休 ※ビーフカツサンドは四条、ポルタ、八条口支店でも提供。
https://www.inoda-coffee.co.jp

『クウネル』2026年9月号掲載
写真/原 祥子、取材・文/野崎 泉、編集/鈴木麻子

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『クウネル』NO.140掲載

旅を深める本76冊と歩く、京都。

  • 発売日 : 2026年7月17日
  • 価格 : 1,080円 (税込)

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