林真理子さんが推薦。ときめきと切なさが交差する珠玉の「恋愛映画」7選【前編】

中学生の頃から、ロマンティックなラブストーリーを映画館でよく観てきたという作家・林真理子さんが、珠玉の恋愛映画7作品を紹介してくれました。

『ラ・ラ・ランド』 ©2017 Summit Entertainment, LLC. AllRights Reserved.

PROFILE

林真理子/はやしまりこ

1954年山梨県生まれ。コピーライターを経て『最終便に間に合えば』『京都まで』で第94回直木賞を受賞。アンアンで27年続くエッセイをまとめた『美女ステイホーム』(小社刊)をはじめ、著書多数。2022年7月に日本大学理事長に就任。

恋愛映画は、感性を磨いてくれます

「仲のいい女友だちと待ち合わせ、コーヒーを片手にシネマコンプレックスで2時間ほどスクリーンに没頭する。映画館に足を運んで映画を観るのは、なんとも豊かで贅沢な時間ですね。選ぶのはもちろん、ロマンティックなラブストーリーです」

そう話すのは作家の林真理子さん。中学生の頃『ロミオとジュリエット』を観て、オリビア・ハッセーとレナード・ホワイティングが演じる、幼き恋人同士の悲恋に涙を流したのが、最初のラブストーリーとの出会い。そして高校生になった頃に大ヒットしたのが『ある愛の詩』です。

「高校生になると男女のグループで映画を観に行くようになり、その後は喫茶店でお互いに感想を語り合って、ちょっと誰かの気を引いたりして。まさに青春の1ページでした」

そして10代の林さんに最も衝撃を与えたのは『風と共に去りぬ』。

「小説を読んだ直後、甲府の映画館でのリバイバル上映を観て、クラーク・ゲーブルは私の永遠の恋人だと思いました。彼が素敵なのは、女性がドジをしたり、失敗した場面で『おい、お前』と笑いながら叱ってくれるところ。女の子が大好きなシチュエーションです。宝塚の男役の方と話した際、このレット・バトラーを演じたクラーク・ゲーブルの笑い方や仕草を、みなさん演技に役立て、勉強していると聞きました」

ラストでふたりが交わす言葉のやるせなさも、林さんには衝撃でした。 「『私がいけなかった。やり直したい』とすがるスカーレットに『俺はできる限りのことはした。でももう無理だ。哀れだな』と、冷たく立ち去るレットの言葉が、まるで自分に言われたような気分になり、胸がギュッと詰まりました」

『風と共に去りぬ』

マーガレット・ミッチェルの原作を1939年に映画化。南北戦争をはさんだアメリカ南部を舞台に、裕福で勝気な娘スカーレット・オハラの半生を描いた作品。「あまりのドラマティックな人生に感動すると同時に、私は山梨の片隅で平凡な人生を送るのかと絶望し、映画館でさめざめと泣きました」

林さんの『風と共に去りぬ』への想いは、ヒロイン・スカーレット・オハラの一人称小説『私はスカーレット』を書き上げたほどです。

「複雑な南北戦争の描写を短くわかりやすく、原作のダイナミックなストーリーはそのままに、スカーレットの視点で書き上げた小説です」

中高生時代は恋愛映画から大きな影響を受けるとともに、話の中に展開されるアメリカやヨーロッパの文化や暮らしも刺激的だったのです。

「今ならふつうのことだけど、当時は部屋にベッドがあることさえも、私にはうらやましかった。妄想しがちな私の夢は、アメリカに留学して寄宿舎に入ること。でも夢見るばかりで、実際は勉強しない子でした」

ロマンティックでもハッピーエンドとは限らない

『ラ・ラ・ランド』 ©2017 Summit Entertainment, LLC. AllRights Reserved.

恋愛映画に欠かせない、大人の男女の複雑な駆け引きやラブシーンには「いつの日か私も」と憧れました。

「『アフリカの日々』という、イサク・ディネセンの小説をシドニー・ポラック監督が美しい映像にした『愛と哀しみの果て』での、メリル・ストリープとロバート・レッドフォードの会話がとても素敵。彼女が『一度でいいからプロポーズを』というと、彼は『僕は君の人生にぶら下がりたくない』と断るんです。ああ、いつかはこんなニュアンスのあるやりとりを誰かとしたいと夢見ていましたが、現実には……」

記憶に新しい『ラ・ラ・ランド』も、愛し合い、お互いを高め合ったふたりが、最後に別の道を歩きます。「それぞれが違う相手と幸せになる。これぞ恋愛映画の醍醐味でした」

ロマンティックでありながらも、予想通りのハッピーエンドとは限らない。男と女の愛情が強く、互いを尊敬し合うほど、別離という選択もあると、映画が教えてくれました。

一方で男女間の絶望を描いた作品の悲哀にも惹かれると選んだのが、「『パリ、テキサス』です。ナスターシャ・キンスキーの今が盛りともいうべき美しさが際立ちます。作品自体は、高峰秀子さん主演の『浮雲』にも通じる、男と女の絶望的な平行線を描き、虚しく切ないんです」

『ラ・ラ・ランド』

夢を追う人たちが集まる街ロサンゼルスを舞台に、売れないジャズピアニストと、女優志望の女性の恋の行方とふたりの運命は?「最初の車のシーンや女性たちのドレスと街のコントラストなど、色彩の美しさもこの作品の魅力です。恋人のためにチャンスを無駄にしちゃいけないと、尽くす男性にも好感が持てました」

デジタル配信中 4K ULTRA HD:8,580円(税込)/Blu-ray:2,750円(税込)/DVD:1,980円(税込) 発売元:ギャガ 販売元:ポニーキャニオン ©2017 Summit Entertainment, LLC. AllRights Reserved.

『パリ、テキサス』

4年ぶりに再会した幼い息子とともに、テキサスを放浪し、妻を探す旅に出る男。行き着いた先で出会った妻は……。ヴィム・ヴェンダース監督の荒野の映像にライ・クーダーの音楽が悲しく漂う。「男女の絶望が悲しいほど美しい。同じような魅力をデブラ・ウィンガーの『シェルタリング・スカイ』にも感じます」

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『クウネル』1月号掲載 写真/天日恵美子(林さん)、ヘア&メイク/赤松絵利(林さん/ESPER)、取材・文/今井 恵

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『クウネル』No.124掲載

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