京都はひとり旅の聖地! 路地の景色、個人店、おいしいもの……気の向くまま、歩いて見つける楽しさ。【山脇りこさん/前編】
目的地は一つだけ。あとはひとり、歩く、歩く。それが最高に楽しい街。京都ひとり旅の魅力について、料理家&エッセイストの山脇りこさんにお話を伺いました。
教えてくれた人
山脇りこ/やまわき・りこ
料理家、エッセイスト
生家は長崎の老舗旅館で、生来のおいしいもの好き、旅好き。『きょうの料理』(NHK)などのメディアで料理家として活躍する一方、旅に関する著書も人気で、『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)はベストセラーに。
足の向くまま、気の向くまま。それが最高に楽しい街、京都。
山脇りこさんがはじめて京都をひとりで旅したのは、いまは亡き母に会うため東京と郷里の長崎を行き来していたころのこと。気持ちを切り替えようと、長崎からの帰りに、えいやっと、勇気をふり絞って立ち寄ったのが、きっかけでした。
京都を選んだのは、友人と、夫と、そして、母ともよく訪れていたなじみのある街だったから。とはいえ、そもそもひとり旅なんて20代のころ以来。寂しくなっても不思議ではありませんでしたが、よく訪れていた店も、ひとりだと見える景色が違いました。旅先での朝ランニングの気持ち良さに目覚めたのも、このとき。それから10余年、いまや京都は、何度も足を運ぶひとり旅の聖地に。
「旅では、目的地を飛び石のように点で結ぶより、その間を楽しみたいなと思っています。なので、最初に三十三間堂に行って、次は智積院、その次は京都国立博物館......などと予定を詰め込まない。あらかじめ決めておく目的地は一つか、せいぜい二つまで。あとはひとりですから、足の向くまま、気の向くまま。その周りをひたすら歩きます。そして、それが最高に楽しい街が、京都かな、と」
車が行き交う川端通から一歩入れば、祇園白川。通りや路地で景色ががらりと変わるのも、ひとり歩く楽しみ。
古都だからといって、目的地が神社仏閣とは限りません。むしろ、そうではないことのほうが多い。たとえば、一乗寺の本屋が目的地なら、近くの蕎麦屋をチエックしておき、その間を歩く。”そうか、ここは詩仙堂も近いのか”と、思い立って足を運ぶ。三条通をテーマに鴨川から西大路まで延々と歩く、なんてこともあります。なにせ、街がコンパクトなので、歩いて回るにはもってこい。乗り物はほとんど使わず、気づけば1日2万歩なんて珍しくありません。
「なぜ、そんなに歩くのが楽しいかといえば、発見がたくさんあるから。ご紹介したカフェ『百春』(後編記事にて詳しく紹介)は、『柳桜園茶舗』への道すがら、見つけました。入ってみたら、おいしい卵サンドに出合えて、大正解。こういうときは最高にテンションがあがります。
偶然見つけて大のお気に入りになった『百春』にはデザートも。これはブランデーがしっとりしみた新作ケーキ。
京都には、東京や大阪、福岡のような大都会では見つけるのが難しくなってしまった、個人がこだわりを持って営む店が、たくさんあります。コンパクトな街の中にこれだけの個人店がぎゅっと詰まっている街は、ほかにはあまりないんじゃないでしょうか」入るか否かも自分次第。その場で入ってみることもあれば、マップに保存しておいて、次の旅の目的地にすることもあるのだとか。
「目的地は、〇〇跡のような旧跡でもいいですし、器やお香の店でも、書店でも、なんでもいいんです。和ものに限らず、京都にはパンやコーヒーのおいしい店も多いですから、自分なりの目的地を決めやすい。それも、はじめてのひとり旅におすすめする理由です」
店先のディスプレイ、老舗にかかる看板やのれん......。通りをそぞろ歩いているだけでも、まったく飽きません。
本が旅のきっかけに。
本もまた、そうした旅のきっかけになります。たまたまパリで開催されていた展覧会で、伊藤若冲に興味を持った山脇さんは、『若冲』を手に、彼の作品に出合える寺を訪ね歩いたり、『利休にたずねよ』と『街道をゆく34 大徳寺散歩、中津・宇佐のみち』を読んで、改めて大徳寺の魅力や背景を知ったそうです。
「大徳寺が茶の湯の寺、利休ゆかりの寺とは知っていましたが、一般公開していない塔頭も多くて、正直、ただふらりと寄って広い敷地を歩くだけでした。それが本を読んで、利休が切腹を命じられる理由がこの寺にあることなどを知り、当時のドラマを想像して歩くようになりました。ゆかりのある本を読んでから訪れると、違った景色が見えると思います」
時に本を携え、ひとり旅を重ねること十数年。歴史好きの山脇さんが、いま改めて感じていることがあります。
「平安京では、文化が花開き、京都は華やかな都、中心として憧れの街になりました。『利休にたずねよ』に登場する秀吉公(豊臣秀吉)も京都に残したものが多く、強い京都愛を感じます。そして、江戸時代以降は、この街に大きく手を加える為政者がいなかったことが幸いしてか、江戸以前の神社仏閣や街場の建物などが、奇跡的に数多く残っています。今の私たちはそれを見せてもらっているんですよね。そこに個人店がぽつぽつある。つくづく贅沢な街だなと思います」
『若冲』
辻 惟雄
江戸期の稀代の絵師、伊藤若冲を世に知らしめた著者による解説本で図版が150点以上!「京都錦市場の大店の息子だと知って、より興味がわきました」講談社学術文庫
『利休にたずねよ』
山本兼一
茶人・千利休の生涯を描いた歴史小説で、大徳寺が舞台として登場。「茶の湯とは?と、利休にたずねたくなります。利休を通して描かれた秀吉像も面白い」PHP文芸文庫
『街道をゆく34 大徳寺散歩、中津・宇佐のみち』
司馬遼太郎
大徳寺がらみで、利休はじめ、後醍醐天皇、一休和尚、狩納永徳など多くの歴史的人物が登場。「『利休にたずねよ』とセットで読むと、より理解が深まります」朝日文庫
『歩いて旅する、ひとり京都』
山脇りこ
京都をひとりで旅するようになったきっかけから、街の歩き方、ひとりごはんアドレス、宿まで。はじめて京都をひとり旅する人への心強いエッセイ&ガイド本。集英社
『クウネル』2026年9月号掲載
写真/岡本佳樹、取材・文/齋藤優子
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『クウネル』NO.140掲載
旅を深める本76冊と歩く、京都。
- 発売日 : 2026年7月17日
- 価格 : 1,080円 (税込)