英国風の洋館で民藝コレクションを眺め、名作に囲まれてしゃぶしゃぶをいただく至福。【京都旅/後編】

十二段家 本店  内装

生活を彩る道具に美を見出す民藝運動は京都から始まった。京都民藝協会理事の四釜尚人さんにお話を伺いました。

用の美を見出した民藝運動。その足跡をたどり、名工の住まいを訪ねて。【京都旅/前編】からの続きです。

教えてくれた人

四釜尚人/しかま・なおひと

京都民藝協会理事

大阪出身。大学卒業後、英国の美術史学校に留学し、現代美術を学ぶ。アンティークのバイヤーなどを経て、京都で民藝を基本とするギャラリーを開設(現在、休廊中)。伝統的な能装束の研究、復元にも取り組んでいる。

アサヒグループ大山崎山荘美術館

充実した民藝のコレクションをもつ「アサヒグループ大山崎山荘美術館」などは、京都を訪れたら行ってみたい施設の一部。

アサヒグループ大山崎山荘美術館 外観

中央の煙突は入ってすぐにある暖炉のもの。この洋館に加え、安藤忠雄設計のモダンな展示スペースにも注目を。

シックな洋館で充実した民藝コレクションを楽しむ。

京都中心部から電車で15分ほどの天王山に建つ美術館。大正から昭和初期に関西の実業家・加賀正太郎が別荘として建てた英国風の山荘は、建築当時に欧州から運んだというステンドグラス、暖炉や照明器具の凝った意匠など、当時の建築技術の粋が集合した歴史的な建築物だ。

加賀の死後、山荘は何度か人手に渡り、取り壊しの危機もあったが、アサヒビールが行政と連携しながら修復、1996年に美術館としてオープンした。見逃せないのは、民藝運動を支援した朝日麦酒の初代社長・山本爲三郎のコレクション。その充実ぶりは開催中の開館30周年記念企画展で確認できる。

百年以上前に建てられた美しい空間でゆっくりと民藝を鑑賞する贅沢な旅の時間。開放的な眺めを楽しめる本館2階喫茶室でのお茶のひと時もこの美術館ならではの楽しみだ。

アサヒグループ大山崎山荘美術館 アイキャッチ

クラシックな照明器具の柔らかい明かりに照らし出されたスリップウエアの名品。開催中の企画展の展示の一部。

アサヒグループ大山崎山荘美術館 2階にある喫茶店テラス

眺望が開けた本館2階の喫茶室テラス。企画展と連動した特製スイーツセットは1,500円。

アサヒグループ大山崎山荘美術館 新築祝いとして贈られた照明

踊り場の2羽の鳥の照明は、新築祝いとして、山荘の創設者の加賀正太郎へ山本爲三郎から贈られたもの。二人の友情の証しのようなデザインだ。

開館30周年記念 山本爲三郎・河井寬次郎没後60年記念
「共鳴 河井寬次郎×濱田庄司 |山本爲三郎コレクションより」

濱田庄司 大鉢

濱田庄司《青柿掛分白流掛大鉢》 1960-70年代
アサヒグループ大山崎山荘美術館蔵

民藝運動をその初期から支持、応援した山本爲三郎。そのコレクションの中心は河井寬次郎と 濱田庄司の作品だ。9月6日まで開催中の『共鳴 河井寬次郎 × 濱田庄司』展では、作陶を通じて生涯の友情を結んだ二人の作品を中心に、民藝運動の胎動 期からの足跡をたどる。安藤忠雄設計の展示室「地中の宝石箱」にて同時開催の『開館30周年記念 没後100年 クロード・モネ展』は27年4月11日まで。

アサヒグループ大山崎山荘美術館

住:京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
営:10:00〜17:00(入館16:30まで)一般 1,500円
休:月曜(祝日は開館、翌日休)
https://www.asahigroup-oyamazaki.com/

十二段家 本店

祇園のしゃぶしゃぶの老舗「十二段家 本店」で今も使われている部屋は、柳たちがたびたび集まり、民藝運動について語り合ったまさにその場所です(部屋のみの見学は不可)。

十二段家 本店  内装

棟方志功の代表作のひとつ「二菩薩釈迦十大弟子」の版画がふすま絵に。続きの部屋には古伊万里の大皿がずらり。

棟方や濱田の名品に囲まれてしゃぶしゃぶをいただく夢空間。

民藝のアートミュージアムと呼びたいような場所が祇園のただなかに。しゃぶしゃぶの店「十二段家 本店」だ。元はお茶漬けの店であったものを戦後に二代目店主の西垣光温さんが再開。西垣さんは柳や河井の活動に共鳴し、彼らの陶作品や書を多く収集した。それらがそこかしこに飾られた客室。運動に関わった芸術家や評論家が夜な夜な集っては語り合ったのと同じ部屋で、21世紀の いま食事を楽しめるなんとも贅沢な空間。なかでも、世界的名声を得る前から応援したことで関係が深まった、版画家・棟方志功の作品や西垣さんあての手紙は垂涎のアートピース。

京都牛を使ったしゃぶしゃぶはごまだれでいただくのがこちらのやり方。昼なら1万円から、夕食なら1万5000円からのコース(いずれも税サ別)で民藝の美に囲まれながらの価値ある体験はいかがでしょう。

十二段家 本店 にある、民芸品

別の客室の床の間には同じ棟方の「女人観世音板画柵」の屏風が飾られている。1階玄関先のふすまには、棟方が直接描いたという虎や鳥の奔放なタッチの絵を見ることができる。

十二段家 本店 内装

二代目店主の西垣光温さんは河井寬次郎の住宅に憧れ、この店のデザインは河井宅に影響を受けているという。

十二段家 本店

祇園の花見小路中ごろを折れてすぐ。

「柳たちは東寺の弘法市や北野天満宮の天神市に頻繁にでかけては、古物を見て回りました。今なら月に一回平安神宮前で開かれている『平安蚤の市』を訪ねてみてはいかがでしょう。骨董や古道具の店が充実しています」と四釜さん。

日程を調整して、百年前に生まれた民藝運動の足跡をたどってみるのも、京都旅行の大きな魅力のひとつといえそうです。

十二段家 本店

住:京都市東山区祇園町570-128
営:昼11:30〜14:30(L.O.13:00)夜17:00〜22:00(L.O.20:00)
休:水・木曜
https://junidanya-kyoto.com/

『クウネル』2026年9月号掲載
写真/岡本佳樹、取材・文/船山直子

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