【フランスの台所vol.1】壁の色を黒からモスグリーンにリノベート。明るいキッチンは家の主役です。

アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所

暮らしの中のキッチンの存在とは?という問いに、ひとりの女性は パルタージュ( 仏語で分かち合うの意味 )する場所と言いました。家族が集い、友人と語らう、幸せを分け合う場所がキッチンなのです。 パリで暮らす女性たちの、素敵なキッチンと料理を取材しました。シリーズ最初にお送りするのはインテリアスタイリスト・アドリエンヌ・デュベッセイさんの台所。

おしゃれな人々が多く暮らすパリの11区。こだわりの味を追求するパン屋さんや生産者指定の八百屋さんなど、 小さくとも上質な店が充実しています。 「この家は中庭があって、窓からはパリの屋根が連なる様と空が一望できる。 そのロケーションに惹かれたんです」と話す、アドリエンヌ・デュベッセイさん。 80年代に購入した際は2LDKでしたが、3年前に隣の物件も購入し、大々的なリノベーションをして今の部屋となりました。改装後にとくに気に入ったのが広々としたダイニングキッチンです。

アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所
キッチン向かって 右にある、調理台やシンク、ワインセラー。 カラフやお皿を収納する棚もモスグリーンでペイント。ワインは夫の趣味

「以前は黒いキッチンだったんです。 でもリノベーションの際に、壁をモスグリーンにし、工業用のアトリエで使われていた棚や古い天板、ニューヨー クで買ったアンティークのタイルなどを使いました。それぞれの風合いと色のニュアンスが調和し、とても気に入っています」 以前はパリのアパルトマンに多い、 部屋の中の奥まった位置にあるコンパクトなキッチン。それが部屋の主役となるキッチンに変わり、全体の雰囲気を温かみのあるものに変えてくれまし た。ワインセラーも備わり、ゆとりがあるので、遊びにきた友人や家族がいつのまにかキッチンに集う。その顔を見ながら、会話を楽しみながら、料理ができることが何よりうれしいとアドリエンヌさん。

「2020年から日々の暮らしが制限 されるようになり、毎日3食準備して食べることで、キッチンで過ごす時間も増えました。それだけにここが私に とって大切な場所になりました」 。

このキッチンで作るのは、旬の素材を使ったシンプルな料理の数々。 「フランスの家庭料理の定番であるブランケット・ド・ポー(仔牛のクリーム煮)や季節の野菜を焼く、蒸す、茹でるなどして、ハーブやスパイスで味に深みを出す、シンプルな料理が多いですね。人気のシェフ『オットレンギ』のレシピ本を見て、よく作ります」 ダイニングとキッチンを仕切るのはペイントの剥げ具合が絶妙な味わいのカウンターです。

3年前にリノベート。 明るいキッチンは、 我が家の主役です。

アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所
リモージュ焼きのデザート皿とコーヒーカップ。アンティークのクリスタルガラスは曽祖母の愛用品。黒の皿とリネンはメルシーのもの。
アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所
曽祖母から受け継いだリモージュ焼きの皿。家族団欒のテーブルに何度も登場した、大切な思い出の品。もちろん今も日常的に使っている。
アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所
キッチンクロスはメルシーのオリジナルリネンや蚤の市で購入したフランス製のものが多い。「丈夫で何年も使える優れものなんです」
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「これは北フランスで見つけた、工場で使われていた作業台なんです。朝食やアペロ、ひとりで本を読んだりするのは、すべてお気に入りのここで」 。大きな窓からの日差しで、明るく心地よいスペース。収納力もあるので、 食器やリネンなど、キッチン周りで使うものを収め、機能性としても大満足とか。アドリエンヌさんはインテリアや雑貨のプロとあって、かなりたくさんの器やグラス、キッチンツールを持っています。「家族から譲り受けたものがたくさん。 曽祖母から受け継いだリモージュ焼きのデザート皿、コーヒーカップ。そしてクリスタルのワイングラスは宝物。 どれも大切な品だけど、毎日を美しい器で気持ちよく過ごしたいから、どんどん日常使いしています」。

そんな貴重な器と違和感なく並び、 魅力を発揮しているのは、旅先でアドリエンヌさんの目に留まった器たち。 「モロッコやチュニジアなどのオリエンタルな柄の器には、つい惹かれてしまいます。また毎年訪れるギリシャのキッチン雑貨屋さんで、アルミのユストンシィル(キッチンツール)を少し ずつ買い集めてきました。フックにかけられるので使いやすく、毎日大活躍しています」 結婚を機に長女が独立し、現在は夫とのふたり暮らしです。

アドリエンヌ・デュベッセイ パリの台所
南仏のアンティー ク市でひとめ惚れしたガラスの棚にはグラス類を収納。家族から受け継いだサンルイやバカラのアンティークなど。

「朝は近所にあるブリオッシュ専門店で買ってきた、美味しいブリオッシュとハーブティーが定番です。せっかく家で食べるのならと、夕食は以前にも増して野菜を使った料理を作っていま す。友だちが遊びに来ない日は、ワイン好きの夫が料理に合う一本をセラーからチョイスし、ふたりでアペロを楽しむ。そうすることで外食ができなくても、家の中で過ごす時間がさらに充実する気がして」。

好きな器や居心地のいいキッチンで、 日々の暮らしを前向きに充実させているアドリエンヌさん。「家族から受け継いだ器やカトラリーを食卓に並べ、古いものを使いながら歴史を感じる。とても豊かな気持ちになるし、本当に幸せだと感じます」

『ku:nel』20215月号掲載

写真 篠 あゆみ / コーディネート 鈴木弘子/ 文 今井 恵

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