【私の東京の味】甘糟りり子さんに聞いた、“ドレスダウン”の感覚で美食に出合える3軒(後編)

流行最先端のレストランクルーズは、若い世代にまかせ、大人の東京を愉しむなら、〝ドレスダウン〟をキーワードに、自分だけの東京の味を見つけましょう。作家、甘糟りり子さんが教えてくれたとっておきの3軒。後編はイタリアンと和食の名店をご紹介します。

『ドンチッチョ』の石川勉シェフとは、かれこれ30年来のつきあいだそう。

「星条旗通りにお店があった頃からですね。『ドンチッチョ』には、ファッショナブルなグループや家族連れ、年配のカップルなどいろんな客層の方がいて、それもお店の個性になっていると思います。東京の感度高めな人たちが集い、くつろいでいる姿がかっこいい。〝令和のキャンティ〟のような存在なのかも」

イタリアンなら、手書きのメニューを見ながらわいわいと料理を選ぶのが、大人らしいのでは、と言います。 「3軒目の『びおら』では、初めてうかがったときに、ルーシー・リーの器を見せていただいたんですよ」

李朝の酒器や金城次郎の猪口など、稀少な器に出合えるのも、『びおら』のおもてなしです。

「炊きたてのご飯や日常のおかずをすばらしい器で味わう。これこそ究極のドレスダウンだと思います」

〝ケの料理〟を磨いて究めたのが、『びおら』の料理なのでしょう。店内に飾られた美術品を愛でることも愉しみ方のひとつで、クウネル世代の女性のご褒美ランチや会食にぴったりのお店です。

『トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ』シチリア島のマンマのごちそうを進化させて豪快に、愉快に。

〈仔羊すね肉アグロドルチェ〉3,900円

〈イワシとウイキョウのカサレッチェ〉2,400円

いまも「年に一度はシチリア島へ帰る」という石川勉シェフ。

東京でもハイセンスな街、青山界隈に店を構えてきた石川勉シェフが、青山一丁目駅から徒歩0分のビルに移転したのは、昨年2月のことでした。東京のイタリアン黎明期から、シシリアンスタイルを根づかせてきた石川さんは、スパイスやオイルなどの食材を、現地から調達してきました。

「シチリア島のマンマの味をおもてなし料理に進化させてきました。名物の〈イワシとウイキョウのカサレッチェ〉は、シチリア島の味そのもの。いまも毎年、シチリア島に帰りますよ」

気どりのない料理は大勢でシェアしても、ひとりで食べてもおいしさは変わらず。初夏には、掃き出し窓を開けてテラス席がオープン。夜風にあたり至福の時間が過ごせそうです。

天井にシャンデリアが灯るカウンター席は、大人にこそ似合う。

トラットリア シチリアーナ・ドンチッチョ

住:港区南青山1-2-6 ラティス青山スクエア1F
営:18:00~22:30L.O.
休:日、第1・第3月、祝日の月
予:予約が望ましい

『びおら』旬の素材に手をかけ、心を尽くす、家庭料理の極み。

貝柱と九条葱のぬた。昼、夜のコースの一部。

土壁と天然の木を使った静謐な空間は、柳原照弘さんのデザイン。

席について耳を澄ますと、心地いい音が聞こえます。特別に集音した、庖丁で野菜を刻む音や茶釜が沸く茶室の音色はオーナーの後藤すみれさんにとって、懐かしい日常の音。

「共同オーナーで母の後藤加寿子は茶道の家元に生まれ、料理研究家として家庭料理を伝えてまいりました。母の料理を次世代へ、という思いで、『びおら』を始めました」。献立を加寿子さんが監修し、キッチンスタッフが再現します。炊きたてのご飯、出汁が香る味噌汁、揚げたてコロッケ……。

「『びおら』では高級な食材も珍味もほとんど出ません。出汁をきちんととり、旬のものに手をかけて作るだけ」

日日の料理こそが、本物の贅沢だと教えてくれるお店です。

新じゃがのコロッケとご飯、味噌汁は昼のランチコース3,850円~、夜のコース12,100円~の一部。

びおら

住:港区南麻布4-12-4 プラチナコート広尾1F
営:11:00~14:30  18:00~22:00
休:日、祝 月曜の昼
予:夜は前日までに予約が望ましい

PROFILE

甘糟りり子/あまかす・りりこ

1964年生まれ、鎌倉市在住。90年代から東京や湘南のレストランの変遷をエッセイや小説で発表。最新刊に『私、産まなくていいですか』(講談社文庫)。

『クウネル』2024年 5月号掲載 写真/木寺紀雄、取材・文/田村幸子

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『クウネル』No.126掲載

私の好きな東京

  • 発売日 : 2024年3月29日
  • 価格 : 1000円 (税込)

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