新連載【写真家・中川正子さんVol.1】素敵な大人ってなんだろう。私のアイドルは85歳!

中川正子さん連載1メイン

50歳は人生の折り返し地点というけれど、旅の途中のようなもの。まだまだ成長できるし、もっと人生を楽しみたい。でも、実際は暮らしも体も気持ちもいろいろと変化するわけでーー。そんな50代のリアルな視点で、暮らし、健康、装い、人との関わり、仕事、学び、旅……とさまざまなテーマで、今思うこと、日々のちいさな発見や挑戦を、写真家・中川正子さんが写真と文で綴ります。第1回は、中川さんがロールモデルにしているという、素敵な人生の先輩について。

日々、ちいさな冒険

はじめまして。写真家の中川正子と申します。2011年、東京から岡山へ移住。写真を撮り、文章を書きながら、日本各地や海外を巡って暮らし、仕事をしてきました。今年53歳になります。

年齢を重ねるほど、日々はもっと落ち着いていくのかと思っていたけれど、実際は逆でした。知りたいことや試したいことは増えるばかり! 時間が足りない! ダンスを始めたり、編み物に夢中になったり、すてきに年を重ねる先輩たちに会いにいったり。

派手で大きな何かじゃなくていい。でも、毎日ちいさく発見し、更新しながら生きていきたいと、ますます思っています。それは、ちいさな日々の冒険と呼べる気がします。

暮らし、健康、装い、ひととの関係、仕事、学び。日々のなかで見つけたちいさなひかりや発見や可笑しみを、この連載で綴っていけたらうれしいです。

中川正子さん連載1アイキャッチ

コロナ禍に始めた編み物、ひたすら熱中しています!

人生の残り時間を考える

年齢は数字でしかない。

もう聞き飽きるくらい、みんなそう言う。
わたしも概ね同意です。

でも同時に、数字は事実も表している。
53歳の20年後は73歳だ。30年後は、83歳!
数字にすると急にリアリティが迫る。

今と同じように自由にやりたいことを実現できる時間はあとどのくらい。先輩たちはどうしてるんだろう。以前よりも探すようになった。運良く仲よくなれたら、その方の背中だけじゃなくて全身から、学ばせてもらう。

わたしのアイドルは85歳

中川正子さん連載1 ママ

たとえば、近所に、わたしのアイドルがいる。
会いにいける、アイドル。

85歳。
40年ほどひとりで喫茶店を営んでいるスーパーチャーミングな女性だ。

雨の日も風の日も店を開け、朝6時には颯爽と自転車で店へ向かう。そう、自転車で!

若い頃から『ピンクハウス』マニア。今でもファッションがだいすきなママ。『ピンクハウス』のドレスは自転車に巻き込まぬようゴムで縛って乗っちゃう。その上にレースたっぷりのオリジナルのエプロンでロマンティックムードをさらにオン。トレードマークのおさげに、チークもハイライトもしっかりいれて毎日、フルメイク。完璧!

中川正子さん連載1 ママの若い頃の写真

ママが40代の頃のファッションスナップ。ぜんぶ『ピンクハウス』なんだって!

何十回もお会いしているけれど、手抜きの装いの日を、一度も見たことがない。「夫の介護で大変だったのよ」という寝不足の夜の翌日だって、きちんとまとめた髪には初めて見るかわいい飾りをつけていた。

常連さんはそれぞれの指定席に決まった時間に座る。ママはすべてのひとに等しく親しく声をかける。そっとしておいてほしいひとには適切に、距離を置く。誰もがここはじぶんの居場所だと安心している気配がある。新入りのわたしも、同じだ。

ある日、わたしのエッセイ集を読みたいと言ってくれたので、お渡しした。ほんとうにお読みになるのかしら。そうしたら翌週、あっという間に読んでしまったと報告してくれた。ページの角をたくさん折って、線を引いたページを見せてくれる。溢れるように感想を伝えてくれた。店を営みながら介護と趣味のカラオケとボウリングで忙しいのに! いったいいつ、読んでくださったの。

「睡眠時間削って読んだのよ」とママは照れたように笑う。たぶん、わたしを心配させないように大きめに。ママは、笑うとき、全身を使って、笑うのだ。ほんとうに、おかしそうに。

あなたはわたしのロールモデル

中川正子さん連載 コーヒー

なにげない会話に長い人生を生きてきた哲学が。

なんてすてきなの。

毎日じぶんを整え、誰かと支え合って、すきなことがありすぎて時間が足りなくて。かなしいことがあっても、明るいほうを向いて。

「ママはわたしのロールモデルのひとりよ」

そう言ったらママは「ロールモデルってなに?」とティーンネイジャーみたいなひかる瞳で尋ねる。わたしなりの定義を伝えると、急いでメモ帳を持ってきてそこに書き付けた。

「正子ちゃんに教えてもらったせっかくのあたらしい知識、忘れないようにしたいの」

ママは薔薇みたいにまた、笑った。

PROFILE

中川正子さんプロフィール画像

中川正子/なかがわ・まさこ

写真家・エッセイスト

神奈川・横浜生まれ、千葉・船橋育ち。2011年に東京から岡山へ拠点を移す。自然な表情をとらえたポートレートや美しいランドスケープなどを得意とし、雑誌、広告、書籍など多ジャンルで活躍。写真集も多数出版。執筆も手がけ、エッセイ『みずのした』(くも3)を2024年に発表。

写真・文/中川正子

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