実はホラーにこそ映画の醍醐味がある!豊島圭介監督が薦める「傑作ホラー映画」8本

先入観を超えてもっと楽しみたい映画のジャンルのひとつが、ホラー。今回は数々のホラー作品を手がける映画監督・豊島圭介さんにおすすめの傑作8本をご紹介していただきました。

PROFILE

豊島圭介/とよしま・けいすけ

1971年生まれ。2003年ドラマ『怪談新耳袋』で監督デビュー。代表作に『怪奇大家族』、『三島由紀夫VS東大全共闘~50年目の真実~』、『妖怪シェアハウス』などがある。

実は映画の醍醐味がとことん詰まっているのがホラー!

今、ホラー映画がかつてない盛り上がりを見せています。ハリウッドはもちろん、アジアや北欧など新たな産地から世界的なヒットが生まれ、公開される新作も引きも切らず……。また映画史に残る名作の続編が製作されるなど世界的な流行傾向と言えそうです。とはいえ何を観るべきかわからないし、やっぱり苦手、という人も多いのでは。

数々のホラー作品を手がける豊島圭介監督も、もともとは“食わず嫌い”だったそうですが……。

「昔は怖くて一切観られませんでした。Jホラーブームの立役者の一人、清水崇監督と出会って彼の『呪怨』を観たら、死ぬほど怖くて。でも見どころをつかんで観ると、いかに面白いかがわかり一気にホラーが大好きに」

では見どころとは?とうかがうと

「情報を、どの順番でどう見せれば観る人に最も効果的に伝わるかを計算して見せるのが映画ですが、ホラーの場合は怖いか怖くないかの二択なので、より緻密な描き方が問われるんです。ホラーこそ映画そのもので、これほど映画らしい映画はなく、映画の面白さが詰まっているんですよ。なぜホラーを観るのかと聞かれれば非日常を体験して驚きたいから。恐怖って突き抜けると笑いに変わるんです」

同じく恐怖と表裏一体にある“美しさ”もホラー映画の魅力の一つだそう。

「モダンホラーの傑作『シャイニング』は、いろいろな監督がパロディにしていますが、実際に劇中の演出を真似しようとすると、どのシーンも背景と人をミリ単位で配置して撮影していることがわかります。完璧に計算しつくされた美術、シンメトリーや遠近法を使った奥行ある演出など映像設計に満ちたアートです。SF映画でもある『エイリアン』は、クリーチャーデザインを手がけたH・R・ギーガーの世界観が唯一無二。好きなホラー映画は美術的に美しい作品ばかりです」

また、お化け、怪物をより恐ろしく描いてあると怖いのかと思いきや、大事なのは人間の描き方だと豊島監督。

「優れたホラー映画ほど、人間がしっかり描かれています。たとえば古典的名作『悪魔のいけにえ』はメインの悪役だけでなく被害者側のキャラクター造型も素晴らしい。サイコパスとの晩餐会シーンなんて、まったく話が通じない人がずっと自分の話をするんですよ、恐怖でしょ。“お岩さん”で知られる『東海道四谷怪談』は、天知茂演じる伊右衛門のクズっぷりが、ニヒルな魅力にあふれて色っぽくて。フィクション=嘘の世界で観客を惹きつけ続けるのは難しいから、人間がちゃんと描かれないと、観ている側は醒めてしまうんです」

知恵と工夫を重ねたホラー映画というジャンルは、映画というクリエイションそのもの。まずは豊島監督おすすめ作品から、怖さの目安を参考に観ていくともう、目くるめく世界へ……。

パワーと哲学がある!おすすめの傑作8本

傑作でホラー開眼してみる『呪怨 the original 』

夫に殺された女性の呪いが次々と襲いかかるJホラーの傑作。「『リング』と並んで日本で一番怖い映画。世界中の監督に与えた影響は大きく、ホラー映画の流れを変えました。このオリジナル版は冒頭の街の風景からもう怖くて、ホラー初心者には2002年劇場版のほうが見やすいかも」

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ケレン味たっぷりの仕掛け『東海道四谷怪談 』

鶴屋南北の原作は何度も映画化されているけれど最高傑作とされるのがこの1959年版。「歌舞伎でも有名な戸板返しをはじめ、お岩さんの変身場面などケレン味たっぷりの仕掛けがふんだんに。完成度の高さ、美術の美しさ、伊右衛門を演じる天知茂のニヒルな悪の魅力が見どころです」

©国際放映 〈HDリマスター版〉Blu-ray 発売元:ハピネット・メディアマーケティング/ファイヤークラッカー 販売元:ハピネット・メディアマーケティング

Jホラーの系譜でアジア発『悪魔の奴隷』

2017年インドネシア観客動員第1位を記録した大ヒット作。「病気で臥せっていた母親が亡くなり、幽霊が現れるという物語で、Jホラー的描写が惜しみなく繰り出され、Jホラーへのリスペクトを感じます。『怖がらせてほしい』という人には最も費用対効果が高いホラーでは」

© 2017 RAPI FILMS ALL RIGHTS RESERVED Blu-ray・DVD 発売・販売元:ツイン

何一つ無駄のない84分『悪魔のいけにえ』

マスクを被った大男(レザーフェイス)がチェーンソーで若者たちに襲いかかる、ホラー映画の金字塔。「映像も編集も音の使い方も過不足なく、アートワークとして完璧。ラスト、宝物のように美しい到達点がありますが、そこに至るまでが死ぬほど怖いので一人では観ないほうがいいです」

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未知こそが恐怖だと知る『エイリアン』

宇宙船という密室で、得体のしれない化け物に襲われるSFホラー。「異生物がお腹を突き破ったり顔に貼りついたり。エイリアンを造型したデザイナーが、H・R・ギーガーでなかったらこれほどまで美しくならなかったはず。ゾンビ映画『バタリアン』のダン・オバノンによる脚本も秀逸」

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.  ディズニープラスのスターで配信中

目覚めたら中身が別人に!?『SF/ボディ・スナッチャー』

不思議な生命体に寄生されると、子どもや家族、恋人が、見た目は同じなのに中身が別人になってしまうという恐怖を映像に。「ラスト、特殊メイクや照明などを使わず、人間がただ演じているだけなのにとても怖くて。ぜひラストカットに注目して見ていただきたいです」

INVASION OF THE BODY SNATCHERS © 1978 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. 〈HDリマスター版〉Blu-ray 発売元: ニューライン 販売元:ハピネット・メディアマーケティング

モダンホラーの最高傑作『シャイニング』

冬の間閉鎖されるホテルの管理人としてやってきた小説家が狂気に囚われていく姿を鬼才キューブリックが緻密な映像設計で描く。「名作中の名作。手斧を持ったジャック・ニコルソンが暴れる姿より鏡に現れる文字やタイプライターの方がより怖い。細部まで美術が素晴らしいです」

© 1986 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.  デジタル配信中 ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

漫画に触発された北欧ホラー『イノセンツ』

子どもたちが団地で超能力合戦をする大友克洋の漫画「童夢」にインスパイアされたというホラー。「ここ数年で一番好きな作品です。無邪気な悪意から生まれる惨劇をローテクな手法で描くのですが、ちゃんと恐怖になっていて。移民問題やネグレクトなど、社会問題も盛り込まれて」

©2021 MER FILM,ZENTROPA SWEDEN,SNOWGLOBE,BUFO,LOGICAL PICTURES ©Mer Film  2024年1月17日Blu-ray発売 発売・販売元:松竹

『クウネル』1月号掲載 取材・文/大島美樹

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『クウネル』No.124掲載

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