【対談】ギャスパー・ノエ×ダリオ・アルジェントが語る創作のインスピレーションを受けた日本映画とは?

ギャスパー・ノエ監督とダリオ・アルジェント監督がオンライン対談。お二人がダッグを組んだ話題作『VORTEX ヴォルテックス』について、また、創作のインスピレーションを受けた日本映画について語っていただきました。

PROFILE

ギャスパー・ノエ/Gaspar Noé

映画監督。1963年生まれ。カンヌ映画祭批評家週間賞を受賞した『カルネ』(’91)で脚光を浴びる。『アレックス』(’02)、『LOVE 3D』(’15)など、常に過激な描写が物議を醸す。

ダリオ・アルジェント/Dario Argento

映画監督。1940年生まれ。ローマの新聞『パエーゼ・セラ』の映画評論や脚本家を経て、1970年に監督デビューし、『サスペリア』(’77)の大ヒットでイタリアン・ホラーの名匠に。

本格的な演技は初めてのアルジェントさんを主演にした理由とは?

過激な描写で常に物議を醸してきたフランス映画界の鬼才ギャスパー・ノエが、「暴力」も「セックス」も封印し、認知症を抱える“妻”と心臓病を患う“夫”の最期の日々を描いた『VORTEX ヴォルテックス』。

自身が脳出血で生死の境をさまよった経験を経て制作に至った本作は、まさにノエ監督の新境地。“夫”を演じたイタリアン・ホラーの巨匠ダリオ・アルジェントさんとノエ監督にお話を伺いました。

杉谷伸子さん(以下敬称略)

撮影当時80歳にして本格的な演技は初めてのアルジェントさんを主演に起用されたのはなぜですか?

ギャスパー・ノエさん(以下GN)

ダリオはヨーロッパで最もカリスマ性の高い人物ですし、この作品には完璧な存在でした。イタリア映画の名作『ウンベルト・D』にインスピレーションを得ているんですが、ダリオもこの映画が大好きだそうで意気投合し、撮影も順調に進みましたね。

ダリオ・アルジェントさん(以下DA)

ギャスパーが監督として優れているのは、俳優の自由にさせてくれるところ。現場で勝手に人物像を作り上げて演じている私に、自身でカメラを回しながらついてくるんだ。彼の即興的な演出は非常に勉強になったね。

GN

ダリオは名監督なので、撮影現場でも僕が映画を引っ張っていくよりは、全面的に彼に任せたほうがいい。“夫”の人物像の設定も彼に任せました。“夫”が映画評論家なのもダリオの希望です。彼は、もともとは映画評論家でしたからね。

杉谷

ですから、溝口健二監督など日本映画についての言及もありますね。

『VORTEX ヴォルテックス』

認知症の妻と心臓病の夫、病を抱える老夫婦の“死に様”を描く。監督・脚本:ギャスパー・ノエ 出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン他 12月8日より全国公開。

© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA

「好きな日本映画を挙げたらキリがないよ」

杉谷

映画監督であるお二人に影響や刺激を与えた日本映画はありますか。

GN

溝口の作品は、コロナ禍で外出できなかったときにDVDを買ってほとんど観ました。日本映画には素晴らしいものが多くて、タイトルを挙げだすとキリがない。でも、『VORTEXヴォルテックス』がインスピレーションを得たということでは、木下惠介監督の『楢山節考』と黒澤明監督の『生きる』ですね。『楢山節考』は視覚的に美しくて、フェリーニ作品を思い起こさせるところもある。中川信夫監督の『地獄』って観た?(と、アルジェントさんに)あの映画のセットや色彩の使い方は本当に素晴らしい。

杉谷

確かに題材的にも、東京を舞台にした『エンター・ザ・ボイド』で死後体験を大胆に描いたノエ監督がお好きそうな作品ですね。

DA

私は黒澤明監督の『羅生門』が好きだね。最も美しい日本映画だと思う。私にとって、“大きな夢”といえるようなものです。特に心理描写が素晴らしくて、映画監督にとって模範となるような作品だよ。

GN

実はダリオから薦められて、1か月前に『羅生門』のブルーレイを買ったんですよ。で、夜中に観てたら、途中で寝ちゃったんです。今、ダリオの話を聞いて、ぜひ、もう一度ちゃんと観ようと思いましたね。映画を見ている最中に寝てしまうことに罪悪感を抱く人もいるでしょうけど、僕は映画監督でありながら、映画を観ながら寝てしまうことにまったく罪悪感を感じないんですよ。“映画は夢である”ということもありますから。

杉谷

なるほど、『VORTEX ヴォルテックス』の中でも、映画評論家である“夫”によって、「すべての映画が夢だ」ということが語られます。

DA

私は『羅生門』は10回以上観てますが、どんなに素晴らしい作品でも、「まどろむ」ことはありうることですよ。というか、素晴らしい映画だからこそ、映画という夢のような世界の中に入り込んで、まどろんでいるうちに眠ってしまうことはありうる。いずれにしても日本映画は内容が豊かなものが多い。私もやはり好きですね。

『羅生門』黒沢明監督

原作は芥川龍之介の短編小説『籔の中』。平安時代の京の都を舞台に、ある事件を複数の登場人物の視点から描く。出演:三船敏郎、京マチ子、森雅之他。1950年公開。

©KADOKAWA1950

『楢山節考』木下惠介監督

老いた親を山に捨てる「姥捨て」という残酷な因襲が、舞台演劇風の人工的様式美の世界で悲しく綴られる。原作は深沢七郎の短編小説。出演:田中絹代、高橋貞二他。1958年公開。

写真提供/松竹

『地獄』中川信夫監督

怪談映画の巨匠と呼ばれる中川信夫監督による意欲作。仏教の八大地獄の映像化をテーマに、死後の世界である地獄が独自の世界観で毒々しく描かれる。1960年公開。

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『クウネル』1月号掲載 取材・文/杉谷伸子、編集/吾妻枝里子

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『クウネル』No.124掲載

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