暮らしの中のキッチンの存在とは?という問いに、ひとりの女性は パルタージュ( 仏語で分かち合うの意味 )する場所と言いました。家族が集い、友人と語らう、幸せを分け合う場所がキッチンなのです。 パリで暮らす女性たちの、素敵なキッチンと料理を取材しました。シリーズ3回目はアーティストのゾエ・ルモーさんの台所をご紹介。
パリ郊外モントルイユにある、1950年代に作られた元ウエディングドレスの縫製工場の建物にひとめ惚れしたゾエ・ルモーさん。「ずっとパリの中心部で暮らしていたので、郊外暮らしには最初は抵抗がありました。この家も住居にするには大工事が必要でしたが、広さと天井の高さ、そして何より土台がしっかりして いることにひとめ惚れしました。2011年に購入し、1階が私のアトリエと長男の部屋。2階がダイニングキッチンとリビングルーム、そして夫婦の寝室。3階が長女の部屋です」 キッチンは一から作ったものなので、 ゾエさんの思い入れを込めた分、すべてが気に入っています。
「リビングルームとキッチンの仕切りをガラスのパーテーションにしたので、家族やゲストとつねにつながっている感じです。ロックダウンや外出制限で、 今までよりキッチンに立つ時間が長くなったのですが、つくづくこのデザインにして良かったと思いました」
壁はダークグレー、キッチンの床はトメットと呼ばれる六角形の素焼きタイル、ダイニングの床は黒のフローリングにしました。キッチンには子供たちが小さい頃の写真、家族旅行の写真、 また結婚してインドのジャイプールに住んでいる妹家族の写真などを飾り、心がやすらぐ場所に。
「以前は真っ白なキッチンでしたが、 私は落ち着かなかった。グレーは食材やお料理を美味しそうに見せてくれるので、とても気に入っています」
キッチンの作業台は IKEAで購入し、 黒くペイントしました。引き出しの取 っ手は、夫が木を加工して作ってカスタマイズしてくれました。 「部屋の奥に向かっての縦長キッチンなので、ガラスのパーテーションからリビングルームの灯りが取り入れられ、 とても開放的になりました」
ジャイプールで見つけた、 自慢のキッチンツール。
そんなお気に入りのキッチンは、ゾエさんの暮らしの中でどんな存在なのかをうかがってみると。 「パルタージュ(=生活、人生を分か ち合う)する場所です。この家に住み始めたのは、長男が7歳、長女が4歳のとき、今は17歳と14歳で子供たちも思春期を迎えていますが、夕食は相変わらず家族揃って食べています。その日にあったこと、学校、仕事、バカンスの予定、食べ物についてなど、いろいろな話をしながら食卓を囲むのが、 我が家の習慣です」
家族の食事は料理が得意な夫のジャン=ジャックさんが担当。ゾエさんが作るのは、平日のひとりランチ。アト リエ作業の合間に、スープやタルトな ど野菜中心の料理を作り、さっと済ませています。またお気に入りのパティスリーで買ったスイーツを、アトリエスタッフや帰宅した子供たちと食べる のも楽しい時間です。
「器やキッチンツールは毎年ジャイプ ールに住んでいる妹を訪ねるので、そ のときに買うことが多いですね。必ずチェックするのは『AKFD Studio』という雑貨を中心としたコンセプトストア。必ずかわいいキッチン雑貨に出合えるんです。また地元の人たちが日常的に使う包丁やキッチンバサミ、器などを買って持ち帰ります。ほかにはチェコやスロバキアなどの東欧のものや、フランスのアンティーク、友人が作った一点ものの器などが多いです。
毎日使っている愛用のお皿と共に
キッチン同様白い器は好みではなく、 色のある食器が好きです。その方が野菜や料理が生き生きと、美味しそうに見えるように思うんです」。 とくにお気に入りなのは、アーティストの友人が作る「Olga etc…」の器。 「フォルム、色など、すべてがオリジ ナリティに溢れています。黒いお皿は何種類か持っていますが、毎日食卓で活躍しています」
他にもマラケシュで買ったグラスや フランスのビストログラス、友人であ るアーティスト、エロディ・ヴィニュの器もコレクションしています。 「作家の作品だからといって飾っているのではなく、毎日使ってテーブルを楽しくするのが私のスタイルです」 コロナ禍でなかなか旅に出られないのが残念なことと語るゾエさん。 「今は海外で買った器や道具を使い、 そこに暮らす人の生活を身近に感じ、 遠い国へと想いを馳せています」
ゾエ・ルモー
アーティスト
ソルボンヌ大学で美術史を専攻。ボンポワンやディオール、Merciなどの店内ディスプレイを手がけた後、現在はワイヤーオブジェの作品がパリをはじめ、ヨーロッパで人気。Instagram:atelierzoerumeau
『ku:nel』2021年5月号掲載
写真 篠 あゆみ / コーディネート 鈴木弘子、 石坂紀子(白石さん)/ 文 今井 恵
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