【図書館司書たちが選んだ京都グルメ/後編】山村美紗、森見登美彦……京都ゆかりの作家が描くおいしいもの。
図書館で働く食いしん坊たちが選んだ、食への好奇心を誘う本と作家たち。京都府立図書館の職員を中心に、岡崎の図書館で働く司書たちの自主学習グループ「ししょまろはん」にお話を伺いました。
目 次
教えてくれた人
ししょまろはん
京都府立図書館の職員を中心に、岡崎の図書館で働く司書たちの自主学習グループ。本に出てくる京都グルメのデータを作成するなど、さまざまな情報をウェブで発信。libmaro.kyoto.jp
京都ゆかりの作家が描く、おいしい京都。
京都グルメとの出合いをお目当てに作品を選ぶなら?京都のおいしいものを魅力的に描く作家とその作品を、ししょまろはんに聞いてみました。
「とにかく多くの京都グルメが出てくるのが、京都に生まれ、京都で暮らした山村美紗さん。美食家で料理好きとしても知られていました。『京都グルメ旅行殺人事件』は、殺人事件を解決しながらも随所にグルメ情報が出てきておもしろいんです」
山村美紗_美食家のこだわりが光る京都ミステリの女王。
京都を舞台にした作品を書き続けてきた山村美紗さん。事件現場として京都の名所・旧跡が数多く登場し、登場人物たちが解説してくれるだけでなく、現存するグルメの名店がたくさん出てきます。作者自身が愛した京都を、作品の中に残したかったのかもしれませんね。(ししょまろはん)
山村美紗/やまむら・みさ
京都市生まれ。「京都ミステリ」の第一人者として知られる推理作家。京都の町並みや伝統文化を巧みに物語へ取り入れた作品を数多く残している。
『京都グルメ旅行殺人事件』
大学時代の仲間が久しぶりに集まって京都へグルメ旅行にやってきた。仲間が一人また一人と殺されていく中、殺人事件の犯人を推理しながら有名な京都グルメ(キエフのロシア料理、下鴨茶寮の懐石料理、長楽館のコーヒー、松葉のにしんそばなど)をめぐる。文春文庫
田辺聖子_関西生まれの感性で女性の人生をユーモラスに描く。
ほぼ同時期に活躍した女性作家でも、大阪生まれの田辺聖子が描く京都の食は庶民的で親しみやすいものが多い。「『甘い関係』では、すっぽん鍋などの特別な食事と、うどんなどの日常の食事とのコントラストが印象的に描かれています」
「おせいさん」の愛称で親しまれた田辺聖子さん。朝ドラの原作にもなった『甘い関係』では、今で言うシェアハウスのような「ワリカン独立」という関係の女性たちを描きました。作中では、うどんやラーメンといった日常の食のほか、お弁当やすっぽん料理など京都の名店の料理も出てきて、おいしい小説としても読めます。(ししょまろはん)
田辺聖子/たなべ・せいこ
大阪生まれの小説家・エッセイスト。ユーモアあふれる筆致で女性の恋愛や日常を描き、芥川賞など数々の文学賞を受賞。古典文学にも造詣が深く、『新源氏物語』、『姥ざかり』など京都を描いた作品も多い。
『甘い関係』
歳や仕事は違うが、大阪で一緒に住み「ワリカン独立」をしている3人の女性たち。一筋縄ではいかない男と女の関係、女同士の複雑な感情など、様々な人間模様とともに、大市のすっぽん鍋、志る幸の利久辨當と思われる、京都の有名グルメも効果的に登場する。文春文庫
森見登美彦_学生時代を京都で過ごしたリアルな視点と創作が交錯
人気作家、森見登美彦が作中で描くのは、京都の学生たちに人気の庶民的な飲食店やカフェ。「デビュー作の『太陽の塔』はじめ『夜は短し歩けよ乙女』、『四畳半神話大系』でも京都グルメが印象的に登場しています」
学生時代を京都で過ごした森見登美彦さんは、京都を舞台とした作品を数多く生み出しています。そのリアルな視点が作品にも反映され、デビュー作『太陽の塔』の「ごはんカフェ ケニア」など、京都の学生さんが好むお店もたくさん登場します。そんなリアルさが、あの不思議な世界観をより一層引き立てるのかもしれません。(ししょまろはん)
森見登美彦/もりみ・とみひこ
奈良県生まれ、京都大学大学院修了。『夜は短し歩けよ乙女』、『四畳半神話大系』、『有頂天家族』など京都を舞台にした幻想的でユーモラスな青春小説で人気を集める。
『太陽の塔』
モテない京大生がかつての恋人を「観察と研究」という名目で追いかける。京都の大学生のリアルな食生活が垣間見えるほか、ケニアのハンバーグ定食が印象的に登場するなど現実と妄想が混じり合う。第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞したデビュー作。新潮文庫
柏井壽_エッセイ・小説・旅行記などジャンルレスな「京都案内人」。
エッセイ、小説で京都の食を魅力的に描く柏井壽もまた、作中で多くのグルメを紹介しています。「柏井さんは、テレビや雑誌の京都特集の監修を務めたりしているので、食のアンテナにも信頼が置けますね」
ドラマ化もされた『鴨川食堂』シリーズなど、京都を舞台にした食にまつわる小説を多数手がけ、京都に関するエッセイ本も多い作者。そんな中、グリル富久屋のフクヤライスは、複数の小説・エッセイに登場し、筆者のオススメのお店なのだと思われます。文字だけの描写にもかかわらず、見てみたい、食べてみたいと思わされます。(ししょまろはん)
柏井壽/かしわい・ひさし
京都生まれの作家・歯科医。京都を舞台にした小説や旅・食のエッセイを数多く執筆。老舗や京料理、町歩きの魅力を丁寧に描き、『鴨川食堂』シリーズでも広く知られる。
『カール・エビス教授の あやかし京都見聞録』
実在する京都の名所などを舞台に、英国人ミステリー作家の教授カール・エビスが“説明できない出来事”や“あやかし的な現象”を体験していく連作短編集。キッチンパパのハンバーグセット、中村軒の水無月、出町ふたばの豆餅など実在するグルメとストーリーの関わりが面白い。小学館
柏てん_京都グルメを魅力的に描くライトノベルが代表作。
「ライトノベル作家の柏てんさんも、『京都伏見のあやかし甘味帖』シリーズで多くのスイーツや地酒の情報を紹介しています。ストーリーと実在のグルメが繋がるのが、本に出てくる食をたどる醍醐味。知的好奇心と食への探究心が同時に満たせます」
本作では、作者と同じく、外から京都へやってきた主人公が見た京都が描かれています。全12巻のシリーズものですが1冊で1か月が経過し、それぞれに四季折々の京都の和菓子が、京都の名所や行事、伝説などと共に登場。主人公が日本酒好きなので、京都のおいしいお酒情報も出てきます。(ししょまろはん)
柏てん/かしわ・てん
『乙女ゲームの悪役なんてどこかで聞いた話ですが』でデビュー。京都を舞台にした『京都伏見のあやかし甘味帖』や『京都友禅あだしの染め処』など、実在の老舗や京都グルメを織り込んだ作品が人気。
『京都伏見のあやかし甘味帖』
傷ついた主人公・れんげが京都・伏見を舞台に、和菓子オタクの大学生・虎太郎、あやかしたちと出会いながら心を癒していく物語。出町ふたばの豆餅、鍵善良房のくずきり、甘泉堂の栗蒸し羊羹など、タイトル通り京都の甘味が登場する。全12巻の人気シリーズ。宝島社
『クウネル』2026年9月号掲載
イラスト/村松佑樹、取材・文/吾妻枝里子
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