作家・万城目 学さんがガイド。青春小説”ホルモー三部作”の足跡をたどる京都旅。
いよいよ完結編を上梓! 『鴨川ホルモー』に始まり、『ホルモー燦燦』で完結の“ホルモー三部作。その足跡をたどる旅を万城目学さんにインタビュー。
語ってくれた人
万城目 学さん/まきめ・まなぶ
作家
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。化学繊維メーカー勤務を経て、2006年に『鴨川ホルモー』でデビュー。『プリンセス・トヨトミ』(文藝春秋)など注目作を連発。『八月の御所グラウンド』で直木賞を受賞。
撮影:川口宗道
【鴨川デルタ】
賀茂川はやがて、北東から流れてくる高野川と合流して、鴨川と名称を変える。その二つの川の合流地点に存在する、三角形のぽっかり空いた、だだっ広い石畳に覆われた地形。誰が呼んだか鴨川デルタ。中世には戦場になることもしばしばだったという。
—『鴨川ホルモー』その一 京大青竜会より—
賀茂川と高野川が合流し一本の「鴨川」となる場所にある三角州。人々が憩ったり、戦ったりホルモー三部作では重要なスポット。「街の真ん中に川が通っているのは京都特有ではないでしょうか?」(万城目さん)
いまから20年前。本好き、新しいもの好き、面白がりな人たちがニヤニヤつぶやき合った不思議な言葉「ホルモー」。
「万城目ワールド」は、一冊の小説『鴨川ホルモー』から、大いなるインパクトをもって始まりました。京都の街に東西南北に配された大学のサークル同士が、「オニ」を操って戦う謎の競技ホルモー。冴えない京大生の主人公の日常と、オニという非日常、二つの世界をつなぐのに京都という物語性をたっぷり含んだ街はこの上ない舞台でした。
一見、突拍子もない設定のなかに、みんながよく知る寺社や通りの名をちりばめることで、ファンタジーとリアルは融合。読む人々に「もしかしたら存在するの、かも?」と思わせてくれるのです。それから20年。「ホルモー」はずっと続いていた‥‥というのが、完結編として発売されたばかりの『ホルモー燦燦』です。
【下鴨神社 糺の森】
さらに二度目の、「ホルモオオオォォォーッ」がときを隔てずして続き、さらに三度目の雄叫びが糺の森に響きわたったとき、立花さんの「勝負あり、それまでッ」という鋭い声が響いた。
ー『鴨川ホルモー』その六 鴨川十七条ホルモーよりー
京都市左京区下鴨泉川町
下鴨神社の境内に広がり、縄文時代から続く約3万6千坪もの広さを有する森。京都人の憩いの場に。「本当に気持ちのいい場所で、 ふらっと散歩するのにもってこいです」(万城目さん)
「作家生活20年となったら、自分で祝いたいという思いがあったんです。それは、鴨川ホルモー発売から20年でもあるわけで。3作目、完結編を書きたいと提案したんです」
かつての登場人物はしっかり焼を重ね、新しいメンバーも加わり、独特なワールドは健在、いや磨きがかかって。さぞや、楽しんで書かれたのだろうなと思います。「いや、書いている間は、全然楽しくない。それは20年ずっと。基本、全部デタラメ、僕の想像ですからね、そんなにサラサラとはいかんのです」と笑う万城目学さん。1、2作目同様、京都の街のそこここが効果的に使われていますが、物語の舞台として、京都はどんな存在なのでしょう? 建立されて千余年みたいな由緒ある寺社や像がごろごろある、不思議な土地です。
「それは本当にそうですね。でもそういう名所旧跡を大げさに扱わず、ただそこに在るものとして、距離感を持って書いていますね。そこにスポットを当ててしまうと観光小説になってしまうでしょう。そういう場所のなかで確かに生活している日常の話を書きたいので。古いもの、歴史あるものを過度に有難がらず、距離をとって書けるのは、自分が京都で暮らし、大学生をやっていたからだと思います」
【吉田神社】
午後八時半、吉田神社の空に上弦の月が浮かんでいた。拝殿の正面には、すでに一千のオニたちが整然と佇んでいた。薄ら月明かりを浴びて、それはさながら暗室ににょきにょきとひしめき合う白しめじが如き眺めだった。
ー『鴨川ホルモー』 その四 処女ホルモーより ー
京都市左京区神楽岡町
厄除けで有名な古社。作中ではサークル「京大青竜会」の代替わりが行われ、ホルモーの 世界へ足を踏み入れる運命の場所。「節分の祭事が有名で、本の発売後に訪ねました」(万城目さん)
吉田神社に皆で集ったり、三十三間堂でオニが飛び交ったり、「あの場所」が物語のみずみずしさに拍車をかけます。「有名どころを間借りするというか・・・・・・ タダで使わせてもらっています。フリー素材のような感じなんだけど、SSクラス、SSSクラスみたいなフリー素材があちこちに転がっている。それが京都です」
いまは東京に暮らす万城目さん。京都の街が持つ「不思議な引力」のようなものはやはり感じていて、いつかまた住んでみたいとも思っているのだそう。「やっぱりちょっと憧れとしてありますよね。小さくていいので部屋を借りて、そこに簡易ベッドと机だけ置いて。不動産情報とか見て妄想してしまいます」
【京都大学】
信号が青になって、男とともに私も歩きだす。予想どおり、男は京都大学の構内に入っていった。私も少し伏し目がちになって、大学に潜入する。
ー『ホルモー六景』第四景 同志社大学黄竜陣よりー
京都市左京区吉田本町
第1作の主要人物たちや、万城目さんも通っていた最高学府。緑豊かな吉田キャンパスは一般開放されている。「作中に登場するちょんまげの学生は実際にいたんです」 (万城目さん)
今回はホルモーに登場するスポットを紹介しましたが、そういう「聖地巡礼」的な楽しまれ方、小説の広がりは想定外だったようで・・・・・・。
「書いた当初、こんなんありえへんやろうって。まあ、200人に1人ぐらいが『ちょっとおもろいわ』って思ってくれるぐらいかなと。そういう気持ちでしたよ。でも、読者のみなさんは僕が思っているよりずっと想像力豊かで、ホルモーを面白がってくださったんですよね」
未読の方には、まったくわからないホルモーの正体。気になったら、まずは『鴨川ホルモー』から京都の街へ繰り出してください。そして一緒に叫びましょう。ホルモオオオォォォ!
ホルモー3部作
『鴨川ホルモー』
京都の大学サークルがオニを操り競う奇想天外な青春ファンタジー。読書界の大きな話題となり、映画や舞台、漫画など多方面で社会現象を巻き起こした話題作。角川文庫
『ホルモー六景』
『鴨川ホルモー』の裏側や、その後を 描く「スピンオフ的な」連作短編集。 本編の登場人物たちの不器用な恋や青 春を京都の四季に乗せてみずみずしく描いた2作目。角川文庫
『ホルモー燦燦』
1作目から20年目の完結編。京都に加え思わぬ場所も舞台に、あのオニたちが新たな世代と騒動を巻き起こす青春ファンタジー小説。2026年6月に発売されたばかり。KADOKAWA
\オカシな世界とリンクするホルモー京都マップ/
❶ 八坂神社
656年創祀、「祇園さん」と親しまれる花街近くの古社。鮮やかな朱塗りの大きな門が目を引く。第2作『ホルモー六景』では、聡司と楠木ふみがアイスを食べてひと休みする。https://www.yasaka-jinja.or.jp/
❷ 京都府立植物園
1924年開園の日本最古の公立植物園。約24万m²の敷地内で四季折々、約10,000種類の植物が見られる。作中では北に位置する「京都産業大学玄武組」とのホルモーが行われた。https://www.kyotobotanicalgardens.jp/
❸ 三十三間堂
1000体の観音像が並ぶ、120メートルもの本堂を持つ寺院。建物自体が国宝で、日本一長い木造建築。「京大青竜会」と「龍大フェニックス」がホルモーを戦った。https://www.sanjusangendo.jp/
❹ 龍谷大学
1639年創設、ルーツは江戸時代の初期に西本願寺(浄土真宗本願寺派)の境内に設けられた「学寮(僧侶の学問所)」。作中でのチーム名は「朱雀団(のちにフェニックス)」。 https://www.ryukoku.ac.jp/
❺ 京都産業大学
1965年創立、「上賀茂神社」から北に進んだ緑豊かな丘陵地にあり、まさに京都の「北の玄関口」とも言える自然豊かな立地。作中で「玄武組」として登場し、オニの襤褸ろは黒。https://www.kyoto-su.ac.jp/
❻ 立命館大学
1869年創始、京都・滋賀・大阪にキャンパスをもつ私立大学。作中では西に位置する「白虎隊」として白い襤褸のオニを操り、金閣寺近くの衣笠キャンパス周辺等で活動。https://www.ritsumei.ac.jp/
❼ 四条烏丸
京都中心部のビジネス街であり、祇園祭の山鉾が集中する交差点。作中では四大学のサークル部員が一堂に会する“四条烏丸交差点の会”が行われた。
❽ 糺の森
市街地にありながら、東京ドーム約3個分もの広さを持つ。樹齢数百年を数える落葉広葉樹林を中心に、古来の生態系が守られている。ホルモーの戦いの地にもなった。https://tadasunomori.or.jp/
❾ 吉田神社
京大の東側に位置し全国の神様が集まる「斎場所 大元宮」も。境内を抜けた山中には、大正時代の建物を活かした趣のあるカフェが。作中では「京大青竜会」の代替わりが行われた。https://www.yoshidajinja.com/yuisyo.htm
❿ 京都大学
「自由の学風」を掲げ、学生の自主性や個性を重んじる文化が根付く大学。世界的にもユニークな研究が多く、日本最多のノーベル賞受賞者を輩出。1作目の主人公の安倍らが通う。https://www.kyoto-u.ac.jp/ja
⓫ 鴨川デルタ
川の氾濫を防ぐための横断構造物としての働きや、人々が川に親しめるようにという目的で、1990年代に飛び石が設置され、京都市民の憩いの場に。3作目でも重要なスポットに。
⓬ 上賀茂神社
677年創建、京都最古の社。葵祭の舞台として知られ、作中では葵祭にアルバイトとして参加していた主人公の安倍たちが、京大上回生にホルモーにスカウトされる始まりの地。https://www.kamigamojinja.jp/
『クウネル』2026年9月号掲載
写真/福森クニヒロ、イラスト/naggy、取材・文/鈴木麻子
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