【中野翠のおすすめシネマ】ノルウェー発、軽快な 「自分探し」ストーリー『わたしは最悪。』

中野翠のおすすめシネマ

映画やファッション、文学や音楽など各シーンを独自の美意識で見つめ続けてきた、コラムニストの中野 翠さんがおすすめ映画を語る本連載。今回は、北欧の夏の景色を背景に描かれる、ある女性の恋と人生を描いたノルウェー映画。主人公の軽やかさ、潔さに共感したという本作の見どころは?

『わたしは最悪。』

私は最悪。

監督/ヨアキム・トリアー Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開中。配給/ギャガ

© 2021 OSLO PICTURES – MK PRODUCTIONS – FILM I VÄST – SNOWGLOBE – B-Reel – ARTE FRANCE CINEMA

珍しくノルウェー発の映画だけれど、上等の面白さ。二時間ちょっとの上映時間、まったくダレることナシ。必見です。

ヒロインであるユリヤは、そこそこ優等生でアートや文学にも興味があるというのに、社会に出てみれば、何かにつけて中途半端。自分の進むべき道がハッキリとしないまま、いつのまにか三十代に突入してしまった。

年上の恋人アクセルはいるものの、結婚に踏み切る決断もできず。彼が人気作家になっても「彼は彼、私は私」としか思えない。

そんな、ある日。招待されていないパーティにまぎれ込んだユリヤは、同世代の青年アイヴィンと出会い、電撃的(!?)に恋愛モードに突入。

正体不明の女としてふるまっていたのだが、 やがて人生の岐路に立たされることになって……。さてユリヤの選択した道は?という話。

「女性の自立」といった「社会的」なテーマはあるのだろうが、それよりも「私の人生、私が決める」といったニュアンスのほうが強い。そこが、すがすがしい。スンナリと共感できる。

二時間ちょっとの映画だけれど、第一章、第二章、第三章……と章立ての構成なのも軽快さを上手にかもし出している。

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本作でユリヤを演じたレナーテ・レインスヴェは映画初主演にして、カンヌ国際映画祭女優賞を獲得。女子の悩みは万国共通?

セリフのやりとりも簡潔で、的確。 「私の人生はいつ始まる?」とか「(僕にあるのは)ガラクタの知識と記憶術だ」とか「(私を)手に取って、じっくりと。本みたいに」とか。

ノルウェーのどこで撮影したのか知らないけれ ど、北欧の短い夏の風情も楽しめる。

そうそう、この映画、ヒロインがベランダかどこかで、気持ちよさそうにタバコをふかしている場面から始まるのよね。さすがヨーロッパは懐が深い。

文・イラスト/中野 翠 再編集/久保田千晴

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