【中野翠のおすすめシネマ】ハイブランドの美の舞台裏をみるのも愉し!『オートクチュール』

映画やファッション、文学や音楽など各シーンを独自の美意識で見つめ続けてきた、コラムニストの中野 翠さんがおすすめシネマについて語ります。おしゃれ大国・フランスの土台にはこんな繊細な職人の技が!そんな世界を支える女たちのお話。中野さんのイラストも必見。

中野翠/なかのみどり
コラムニスト。
社会・事件に関する批評のほか映画や本、落語などの評論を手がける。著書に「まさかの日々」(毎日新聞出版刊)など。
ハイブランドの美の舞台裏をみるのも愉し!
ファッションには興味があるものの、オートクチュールとは、まったく無縁。パーティ嫌いだし、行儀もよくないし、ドレッシーな服は苦手だし……。それでも、この『オートクチュール』という映画を興味深く見た。

オートクチュールとは無縁な貧しい少女が、ふとしたことからディオールのオートクチュール部門の縫い子としてスカウトされ、めきめき腕をあげ、ファッションに対する思いも徐々に変化してゆく……という話。少女と共にオートクチュールの世界を探検してゆく気分になる。
物語の発端は、こんなふう。ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者であるエステル(ナタリー・バイ)は近ぢか引退しなければいけない年になった。最後のコレクションが間近になる中、地下鉄通路で、若 い女の子にバッグをひったくられてし まう。その女の子……ジャド(リナ・ クードリ)は、ある事情から、バッグを返しにやってくる。
エステルはジャドの指使いを見て、「美しいものを作る指!」と直感、自分の後継者として育てようと決意。アトリエのお針子としてスカウトし、特訓。期待通り、エステルはめきめきと腕をあげてゆく。そして……という、ほぼ「お約束」の展開!そこが、けっこう楽しい。
オートクチュールの世界って、こういうふうに、繊細かつ厳密な技と審美眼のチェックを経て、ドレスとして仕立て上げられてゆくものなんだ……と今さらながらに驚かされる。高いお値段になるのも無理はない!?

教師のごとき役柄のエステルを演じたナタリー・バイも、生徒のごとき役 柄のジャドを演じたリナ・クードリも役柄にピッタリはまっている。
監督・脚本を手がけたシルヴィー・オハヨンも女の人で、少女と共に、ユダヤ系チュニジア人だという。
文・イラスト/中野 翠 再編集/久保田千晴
