マチュア世代憧れの旅の目的地・オーストラリア。シドニーの人気店「ラッキー・クォン」訪問記

マグロと野菜の載ったパンケーキ

オーストラリアのスターシェフとして知られるカイリー・クォンさんが2021年5月にシドニーにオープンしたレストラン「ラッキー・クォン」が早くも話題に。クォン・シェフが創り出した「オーストラリア・カントニーズ料理」とは? また、彼女が追求している「真の栄養」とは?


オーストラリアにある人気店
「ラッキー・クォン」


ラッキー・クォンの店内
ラッキー・クォンの店内

オーストラリア・シドニーのサウス・イヴリー地区はかつて鉄道関連の工業地区だったところが近年再開発され、食やライフスタイルの発信地へと変貌を遂げつつあるエリアです。TV番組にも数多く出演してきた有名シェフ、カイリー・クォンさんが昨年5月にオープンした「ラッキー・クォン」もこの一角にあります。

屈強そうな煉瓦造りの建物。しかし、ガラス扉の中にはこぢんまりとして、ホッとするような空間が広がっていました。「ラッキー・クォン」は5つのテーブルにカウンター席が少し。店のおよそ半分をオープンキッチンが占めています。人々の話し声と調理器具の出す音が混じり合って響きます。その真ん中でトレードマークの飴色のメガネをかけ、指揮を執っているのがクォンさんでした。名物料理の「家庭風フライド・エッグ、XO醬添え」の香ばしい匂いが立ち上りました。

\オーストラリア・カントニーズ料理/ 

ラッキー・クォンの家庭風フライド・エッグ、XO醬添え
「家庭風フライド・エッグ、XO醬添え」
マグロと野菜の載ったパンケーキ
「マグロと野菜の載ったパンケーキ」
ラッキー・クォンのポークベリー
ポークベリーをオーストラリア固有のデヴィッドソンプラムと共にキャラメライズした一皿
炒めたまご麺
「ジミーおじさんの炒めたまご麺」
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中国系オーストラリア人の3世であるクォンさんの食の根っこは母親が教えてくれた広東料理にあります。そこにブッシュタッカー(オーストラリア先住民独自の食材)や、シドニーっ子の食に対する意識──オーガニック、地産地消──が加わり、「オーストラリア・カントニーズ料理」という独自のジャンルが構築されました。

クォンさんはこれまで「真の栄養」という言葉を繰り返し使ってきました。この言葉について、改めて彼女に説明してもらいました。

「ただお腹を満たすだけでなく、心身に滋養を補う料理を提供したいのです。美味しいだけではもはや不十分だと思います。料理によってコミュニティを助け、持続可能性を向上させ、人々を精神的に支える。それができるのが『真の栄養』だと考えています」

クォンさんの育った家庭は働き者揃いだったそうです。彼女自身、オーストラリアを代表するシェフの一人であるニール・ペリー氏の店などで修業し、31歳で自分の店を持って成功を収め、それをさらに移転拡張しと、がむしゃらに働いてきました。ところが、20年ほど経ったある時、自分のエネルギーを別の方向に使うべきではないかと考え始めたと言います。

カイリー・クォンさん
キッチンに立つカイリー・クォンさん
ラッキー・クォンの店内風景
オーストラリア産の白ワインやロゼワインを合わせる人が多い。
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仏教を信じ、ダライ・ラマ14世とも親交のあるクォンさんは、どうしたら自分たちのためだけでなく、他人のためになる仕事ができるかを考えたそうです。その答えが、地域のコミュニティーと「真の栄養」を核にしてつながることであり、小さくてアットホームな店を切り盛りすることだったのでしょう。

彼女の話を聞き、料理を食べるうちに「ラッキー・クォン」には今のオーストラリア人の価値観と生き様がギュッと凝縮されているように思えてきました。それを言葉にすると、自分のルーツに対する誇り、異なる民族・文化を含むコミュニティへの敬意、体と心の健康への希求といったことになるでしょうか。

出来上がった「ジミーおじさんの炒めたまご麺」をクォン・シェフが直々に我々のテーブルまで運んでくれました。「私のヘリテージと言っていい料理の一つです」と言う彼女の眼差しは自信と誇りに満ちて見えました。焦がした溜まり醤油のコクのある香りが確かな幸せのようにフワッと広がりました。

*取材協力:オーストラリア政府観光局

取材・文/浮田泰幸

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