ついに7軒目の家を完成させたパワフルな女性〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの井手しのぶさん。順調に進むはずだった家づくりでしたが、実際は荒れ放題の土地の整地から予算の削減まで、一苦労したのだとか。今回は引き続き、井手さんの家づくり顛末を6回にわたりお届けする連載第5回目・後編をお送りします。
▶前編・自分のために建てた家は何と7軒!これが終の棲家か?!ついに完成した理想の平屋。からの続きです。
笹と雑木との戦いでまずはひと苦労。
見つけた土地は鎌倉・材木座の山のてっぺんにある約80坪。広告には傾斜地とあったが、実際に足を運ぶと草木が生い茂り、荒れ放題ではあるが幸運にも平地であった。しかも売れ残ったからか前年より一千万円以上値下がりしている。もちろんすぐに手を打った。
「30秒ほど立っているだけで、10カ所以上も蚊に刺される有り様で閉口しましたが、荒地の割には水道も、電気、ガスもすべて通っていたのも幸い。通じていない場合は自分で引き込む必要があり、とくに水道の引き込み工事は高いので要注意。相場より安い土地の場合は確認したほうがいいですね。ここは下水も完備されていたし、山の上にしては水圧も問題 なし。水圧が低いと、ポンプアップするにも百万はくだらないので助かりました」
さっそく整地にとりかかった。費用を抑えるつもりで、最初は人力。でもはびこっていた笹は抜いても抜いてもしばらく経つと元どおり。さらに雑木にもひと苦労。実は井手さん、チェーンソーはちょっと苦手だから、雑木を倒して枝を落とすのも手ノコでギコギコと一日がかり。とうとう音をあげ、途中で人力はあきらめた。パワーショベルを入れて、根っこごと地面を掘り返したら一日であっけなく終了。そのすっきり感は費用30万円には代えられない。こうして無事、基礎工事に進んだものの、施工側との見積もりの食い違いで工事は一旦ストップに。
暮らしを楽しむ。
あれこれ削って四百万円予算を縮小。
「この家は新たなローンを組まずに、前の家を売却してローンを清算した残りの手持ち資金でまかなうつもりでした。計画では土地建物合わせて三千万円。土地が約一千八百万円で、上物は建坪でできれば八百万に抑えたい。でも上がってきた見積もりはその倍近い金額でした。そこで一旦ストップして、工事内容の見直し。外壁の光触媒塗装は断念して、床は無垢フローリングからモルタルに。壁 の珪藻土は自分で塗装。電気器具を減らして、キッチンや給湯設備、洗面・バスも施主支給にしてアウトレットを探す……。あちこちをチマチマと削って四百万円くらいは落としたかな」
結局、再見積もりは約一千百万円。省かれた分を自分でまかなう必要はあるものの、手持ちの資金範囲でなんとかなりそう。こうしてどうにか工事再開。今春竣工した家は約25畳のLDKとベッドルーム、バスルームで構成され、ダイニングは玄関スペースを兼ねて、一段下げた土足のスタイルにした。入り口の大きな回転式扉を開けるとすぐ目の前にテーブル&チェアという意表をついたレイアウトなのに、まったく違和感がないどころか、足を踏み入れるとため息ものの素敵さに驚かされる。
「家の中にあまり色を使いたくなくて、木の色とモルタルのグレー、壁の白だけのニュートラルな空間にしました。こだわったのは南側に大開口を設けること。メーカー製品だと百万円以上するため、建具屋さんに作ってもらいました。幅の窓は完全に引き込めるので、全開すると庭がダイレクトに。犬も猫も好きに行ったり来たりしています。泥の足跡で汚れても、モルタルの床はモップで拭くだけ。歳を重ねたら家は小さくてメンテの楽な方がいい。掃除機は重くて使いたくないから、うちでは全面掃除はロボットに任せて、あとはハンディクリーナーとモップだけ。この家に来て掃除のストレスから解放されました。もうひとついいことはよく歩くようになったこと。 犬の散歩に、駅への往復。万歩計は毎日一万歩超え。歩くのは苦にならない質だから、強制ダイエットだと思っています」
そんな井手さんの目下の密かな野望は、 大開口の窓につなげてウッドデッキを作ること。さていよいよ次号は最終回。ガーデナーとして、楽しみながらセンスあふれる緑の景観を生み出す、井手さん流庭づくりをご紹介します。
こだわりPOINT【横長の窓】
女ひとりで家を建てる これまでの記事
■■これまでの記事 ■■
◎【女ひとりで家を建てる①前編】自分のために7軒もの家を建てた女性の家づくりの記録。
◎ 【女ひとりで家を建てる①後編】海のそばに住む夢を実現すべく家を建てたものの……。
◎ 【女ひとりで家を建てる②・前編】自分の家を7軒も建てるまで色々ありました。
◎【女ひとりで家を建てる②後編】3軒目の家を建てたとき、家づくりの会社が始動。
◎【女ひとりで家を建てる③前編】人生バブル期、4軒目に建てた家は箱根の別荘。
◎【女ひとりで家を建てる③後編】事件勃発。人生のバブル期はまさかの転換期でもあり……。別荘を建て、手放すまで。
◎【女ひとりで家を建てる④前編】5軒目の家は鎌倉山の洋館。そこをカフェにする計画が……。
◎【女ひとりで家を建てる④後編】中古住宅を買って、自分好みにリノベーションする楽しみ
◎【女ひとりで家を建てる⑤前編】自分のために建てた家は何と7軒!これが終の棲家か?!ついに完成した理想の平屋。
『ku:nel』2016年11月月号掲載
写真 柳原久子/取材・文・構成 佐々木信子(tampopo組)