河原でひとり、踊る踊る! 突如始めたダンスに夢中な日々。【中川正子さんフォトエッセイVol.3】
50歳は人生の折り返し地点というけれど、旅の途中のようなもの。まだまだ成長できるし、もっと人生を楽しみたい。でも、実際は暮らしも体も気持ちもいろいろと変化するわけでーー。そんな50代のリアルな視点で、暮らし、美容と健康、装い、人との関わり、仕事、学び、旅……とさまざまなテーマで、今思うこと、日々のちいさな発見や挑戦を、写真家・中川正子さんが写真と文で綴ります。今回は、3カ月前から始めたダンスのこと。そのかっこよさと行動力に勇気をもらいます!
何においても、プレイヤーでいたい
10代に混じってダンスを始めた。
先生が「ワンエンツー」と軽やかに踊る。わたしも同じように動いているつもり。なのだけれど!鏡の中には、一拍ずつ遅れて右往左往する人がいる。
わたしだ。
踊っている最中は、ただもう夢中。動画で確認すると、脳内のわたしと現実のわたしのあいだには、まあまあ広い川が流れている。愕然とする。
出張先でも朝練。これは北海道で
きっかけは、高校生になった息子のダンススクールの入会手続き。その日、スタジオで踊る人たちを眺めていたら、むくむくと気持ちが湧いてきた。わたしも、やりたい!!
そうだった。わたしは昔から、見ているよりじぶんでやりたいのだ。サーファーについて海へ行けば、浜辺の荷物番はつまらなくて、波に乗りたかった。サッカー部のマネージャーは1日でやめた。何においても、プレイヤーでいたい気質なのだ。
そんなわけで、息子の入会金を払いに行ったはずが、わたしまで踊り始めてしまった。
習い始めたのは、ハウスダンス。クラスには10代、20代の人も多く、先生が見せた動きをみな驚きの速さで覚えていく。
一方、わたしは。鏡に映る先生と、目の前の先生の左右がごちゃごちゃになる。頭で理解しようとするたび動きが一拍ずつ遅れる。一か所わからなくなると、そこから先も連鎖的にバグる。くうう。くやしさがあふれる。
学生時代、勉強はわりと得意なほうだった。わからないまま授業が進み、ついていけないって経験を、これまであまりしてこなかった。けれどダンスでは、それがしょっちゅう起きる。というか、ほぼ毎回!
ものすごく、くやしい。
大人になって、こんなにももどかしい思いをすることがあるなんて。
うまくなってどうしたいのかとよく聞かれる。当然、誰かに勝ちたいわけではない。発表会に出たいとか、拍手喝采を浴びたいとか、今のところそういうことでもない。
ただ、できるようになったじぶんを、じぶんが見てみたい。
それだけ。それだけだけどじゅうぶんすぎる、動機です。
わたしは、できないのではない。学ぶのが遅いのだ
52歳、ひとり練習コレクション
3カ月ほど続けて、ひとつ確信した。
わたしは、できないのではない。学ぶのが遅いだけ!
10代が1時間で覚えることに、わたしは5時間かかるのかもしれない。それはすごく悔しい。でも見方を変えれば、5時間やれば、わたしだって、同じようにできるはず! クラスで覚えきれなかったら、先生の動画を何度も見て、公園や河原、じぶんで借りたスタジオで繰り返す。
そうして何度もやっていると、ある瞬間、ばらばらだった動きがつながる時がくる。
「あ、こういうことか」
身体が突然、わかる。稲妻に打たれた、は言い過ぎか。でもちょっとそんなかんじ! 河原でひとり、喜びでうわあって言いたくなる。
ダンスの習得は、語学によく似ていると思うようになった。
アメリカに留学したばかりのころ、授業で話されていることがほとんどわからなかった。知っている単語が、ときどき耳に引っかかるだけ。情けなかった。でも必死に聞いた。3か月ほど経ったある日、突然、つるりとつながって聞こえるようになった。魔法みたいに。わからない単語が混じっていても、話のまとまりが意味として入ってきた。
ダンスもきっと同じ。
最初は、右足を出して、左足を寄せて、かかとを上げて、と一つひとつ分解しなければ動けない。それを繰り返すうちに、ある日突然、一連の動きがひとつのかたまりになる。
語学でいえば、今のわたしは新しい単語を覚え、まだおぼつかない発音で声に出しているところ、かな。最初から正確さばかりを求めず、まずは気持ちよく動く。インプットして、アウトプットして、間違えて、またやる。とにかく、やる。
いきなりかっこよく流暢に話したい。先生のようにさらりと踊りたい。けれど、そこまでのプロセスは飛ばせない。ひとつずつやるしかない。
ひとつ覚えて、忘れて、また覚える。じれったくて、悔しい。それでも、昨日できなかったことが、今日ほんの少しできる。その喜びは、大人になってから味わうと、思いのほか大きい。
身体で覚えることに、近道はない
わたしの自主練会場
AIを使えば、多くのことを近道できる時代になった。でも身体で覚えることは、今のところズルができない。何度も見て、何度も動いて、時間をかけて愚直に身体に染み込ませるしかない。
そのままならなさが、今のわたしには、とてもきもちがいい。
イチローさんが言っている。
「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道」
わたしにとっての「とんでもないところ」がどこなのかは、まだわからない。数年後にバキバキに踊っていることかもしれない。もっと高い、とんでもない目標ができちゃうのかもしれない。
イチローさんの言葉を胸に、今日もまた。
小さい動きをひとつずつ積み重ねに、河原へ向かいます!
中川さんの自主練動画、ぜひご覧ください!
Intagram:@masakonakagawa
PROFILE
中川正子/なかがわ・まさこ
写真家
神奈川・横浜生まれ、千葉・船橋育ち。2011年に東京から岡山へ拠点を移す。自然な表情をとらえたポートレートや美しいランドスケープなどを得意とし、雑誌、広告、書籍など多ジャンルで活躍。写真集も多数出版。執筆も手がけ、エッセイ『みずのした』(くも3)を2024年に発表。Intagram:@masakonakagawa
写真・文/中川正子