人生の後半に向けて、今までとは違った迷いや悩みに直面することもしばしば。人生100年時代に女性が自分らしく生きていくには。結婚という選択をした作家・中島京子さんの場合を聞きました。
作家・中島京子さん
50代での結婚がもたらしたのは、かけがえのない何か。
中島京子さんが結婚したのは、51歳のとき。 30代の後半からずっと付き合ってきた、 同じ文筆業の男性と、でした。
「初婚です。長年付き合ってきたけれど、子どももできなかったし、若い人と違って、特に結婚する理由もなくて。 このまま別々に暮らすのでいいのかなぁ、と思っていたのですが」
2019年の5月に公開され、話題を呼んだ映画『長いお別れ』の原作者の中島さん。認知症を患った父親と、その妻、 娘三人(映画では二人姉妹)の日々を温かく、ユーモラスに描いた作品です。 自身も、フランス文学者だった父親の10年にわたる認知症介護に、母とともに取り組み、見送りました。
「母は今も元気なのですが、父が亡くなり、相手の父親も亡くなって、自分の家族は減っていくんだなあ、と思ったんですね。だから、(結婚で)新し い家族ができるのはいいのかも、って思って。たまたま私の住んでいるマン ションの隣が空いて、ちょうどいいかな、と思ったんです。片方で生活して、もう一部屋を互いの仕事部屋にしました。本当に出来心みたいな気持ちだったんです」
数十年前には、女性は25歳を超えたら売れ残りのクリスマスケーキ、などという失礼な「適齢期」観、結婚観がありました。でも時は移り、100歳まで生きることは珍しくない時代。結婚という形もより多様になったのです。
「お互いにひとりの生活が長いので、家事は分担して。料理が好きですから、 ごはんは私が作り、洗濯は向こうが好きなのでやってもらいます。大きな変化はないけれど、前よりはちょっとさみしくない感じはありますね。仕事で問題があって、私が少し切れそうになったりしても、旦那にどーどーってなだめてもらったり。日々そばにいてくれるって、そういうことなのかもしれないです」
50代の結婚が中島さんにもたらしたものは「出来心」以上の、かけがえのない何かだったようです。
中島京子/なかじまきょうこ
1964年東京生まれ。フリーライ ターを経て、2003年『FUTON』 でデビュー。『小さいおうち』で 直木賞を受賞。ほか『夢見る帝 国図書館』(文藝春秋)がある。
『ku:nel』2019年9月号掲載
写真 三東サイ / 取材・文 船山直子