読書や本を眺める時間をこよなく愛するフランス人。長期に休むバカンス先が、もっぱら最大の読書タイムのよう。本の世界で旅したり、他人の人生を生きたりと、おしゃれなフランス人も本の世界で想像を膨らませています。
ドミニク・ガレタ/Dominique Garreta
「プジョー・サヴァール」 マーケティングディレクター
リュクスファッションの世界で働いたのち、ブザンソン近くの小さな街でプジョーの調理器具のマーケティングと商品監修を。週末は15区の姉の家で過ごす二拠点生活。
本で他の人生を生きる。それが読書の魅力
廊下、書斎、そしてリビングルーム。目を見張るほど大量の本に埋め尽くされた部屋で暮らすのは、スイス国境に近いブザンソン周辺に住むドミニク・ガレタさん。膨大な数の本は、どのように整理されているのでしょうか。
「小説、ポエム、エッセイ、心理学や社会学といった風にカテゴリー分けしているんです。次にそれらを作家の国別に分類しています。さらにそれをアルファベット順に並べると、思い出して読みたくなったとき、すぐに見つけられます」まるで書店のような見事な整理術。本棚に収まらない本は、ワインケースに収納して棚の上に置いたりと工夫を。
「家族みんなが本が好きで、とくに姉はのちに作家になったほど。学生時代、彼女が文学の勉強をしていたので、本当に本が多かったんです。必要に駆られて整理術が身につきました」
小さな頃から本好きではあったものの、ドミニクさんが文学に目覚めた!と実感したのは、12歳のときだそう。「それ以前も『海底二万里』のジュール・ヴェルヌ、『モンテ・クリスト伯』のアレクサンドル・デュマなど、子供が好む本を読んでいました。でも12歳でフランス文学やドイツ文学に触れ、そこからは“貪るように”本を読み漁るようになったんです」とくに影響を与えたのは、ロマン主義、写実主義といわれるスタンダールやバルザックといった作家たち。
「人の人生や心理描写を書かせたら、バルザックの右に出る人はいないと思います。たとえばヴィクトル・ユゴーが同じことを描写するには10ページ必要なのに、バルザックは短い描写で的確に表現する。それが彼の魅力です。人生の笑い、怒り、恐れなど、人物描写の素晴らしさにとても惹かれます」
本を読むのは、リラックスできるソファやベッドの中で。「でも平日は忙しく、なかなか読む時間がありません。週末になると姉が住んでいるパリのアパルトマンで過ごすので、移動途中の列車の中で読んでいます。でももっとも読書が進むのはバカンスのとき。だいたい1日1冊ペースでたくさん本を読みます」
最後にドミニクさんが大切そうに一冊の大きな本を出してくれました。「1734年に発行された教会の用語辞典です。オークションで購入したもので、当時の言葉遣いを知る上でとても役に立つんです。今、使っている言葉と綴りが変わったとか、読んでいるといろいろな発見があります。本は私にとって、人の魂の中に入りこむ作業なんです。本を通じて違う人の人生を生きられる。それによって現在の自分の立ち位置を再確認できます。それがとても素晴らしいことなんです」
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/篠あゆみ、コーディネート/石坂のりこ、鈴木ひろこ、文/今井恵