哲学者・永井玲衣さんの心に残る、ひとりでは気づかない新しい風を吹き込んでくれる3冊【成長するための読書案内】
読書を通じて他者の多様な考えに触れて、人は大人になっても自分を見直し、変わっていくことができます。本がもたらす発見と喜び。読書好きな人に聞いたあなたを成長させた本とは。哲学者・永井玲衣さんに伺いました。
教えてくれた人
PROFILE
永井玲衣/ながい・れい
哲学者
1991年生まれ。写真家の八木咲とのユニット「せんそうってプロジェクト」の成果をまとめた近刊『せんそうって』(講談社)のほか、『水中の哲学者たち』などの著書多数。
世界の多様性、豊かさを知るてがかりに。
永井玲衣さんはさまざまな場所で、多様な人たちと哲学や社会について語り合うイベントを主宰しています。必ずしも考え方が一致するわけではない他者との対話を通じて、お互いを新たに発見するきっかけにもなる機会だそう。読書も同じで、自分ひとりで考えていたのでは気がつかない新しい窓が開き、新しい風が吹き込んでくる時間だと言います。
井伏鱒二の『山椒魚』は中学生のころに読んで大好きになった短編。岩屋の中でプライド高く君臨していた山椒魚でしたが、体が大きくなりすぎてそこから出られなくなってしまいます。
「自分もこのひとりよがりの山椒魚みたいなものじゃないか、山椒魚をばかにして笑うことが自分にできるのか。そんなことを考えてちょっとパニックになりました」。あとから岩屋にやってきたカエルとの対話など、不条理で現代的なラストも印象に残ります。
中学生のころに読んだ
『山椒魚』
井伏鱒二 著
のちに文化勲章を受章し、昭和の文壇の大御所だった井伏鱒二が1929年(昭和4年)に発表したデビュー作。永井さんが愛する「ユーモアと悲哀」が物語の根底に流れている。新潮文庫
『辻征夫詩集』は優しい柔らかい言葉で書かれた現代詩ですが、だからといって簡単に理解できるというものでもない。「読んだあとにも心に残って、あの言葉、表現はなんだったのだろう、という問いを残す、そういう詩だと思います」
小学生のころに読んだ
『辻征夫詩集』
辻征夫 著
辻は1939年生まれ、2000年没。10代のころから詩作を始め、大学在学中に第1詩集を上梓した。「うろうろぐるぐるしながら、確実に言葉も本人も育っている。そんな詩の世界です」。ハルキ文庫
そして作家・町田康さんが訳した『宇治拾遺物語』は13世紀前半、鎌倉時代に成立した説話集を現代のリアルな言葉に訳した楽しい読み物です。「こぶとりじいさん」や「雀の恩返し」など昔ばなしの原型の物語が語られ、何百年も前の人たちがどんなふうに生きていたのかが生き生きと伝わってきます。
33歳で読んだ
『宇治拾遺物語』
町田康 訳
池澤夏樹個人編集の「日本文学全集」のうち、町田さんが翻訳を担当した『宇治拾遺物語』。人の心がぶつかって振動し たりするのは、昔もいまも変わりなく面白いと町田さんは書いている。河出文庫
「人間のみっともなさやたくましさ、それは今も昔も変わらないんだなと思わされます。成長というと、いい企業に就職して、家を建てるみたいな固定化されたイメージがつきまといますが、世界はもっと複雑で多様ですよね。わけがわからなかったり、ときには奇妙だったり。その多様で複雑な世界をうろうろ迷いながら、でも停滞することなく変容して育っていく、そのことの意味をこれらの本が示してくれるのだと思います」
『クウネル』2026年11月号掲載
写真/久々江 満、取材・文/船山直子
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『クウネル』NO.141掲載
どんな大人になりたいか?
- 発売日 : 2026年9月18日
- 価格 : 1,100円 (税込)