石川三千花さんがイラストとともに語る! あの人が発していた映画の痺れるセリフに降参。
かっこよさしたたり落ちる言葉から、潔さや寛容で包まれる言葉、正しい考えに胸がすく言葉。男たちのスタンスも、社会の様相や娯楽の役割も変わってかっこいい言葉も変容して......。石川三千花さんによるセレクトとイラストであの人たちのせりふを楽しんで。
お話を伺った方
石川三千花/いしかわ・みちか
イラストレーター・エッセイスト
映画やファッションに造詣が深く、『石川三千花の勝手にシネマ』『勝手にオスカー』など著書も多数。本来は邦画より洋画が得意分野。愛猫と一緒に都内と長野の新しい山荘の二拠点生活を楽しむ。
改めて痺れる超級の殺し文句も、生きる道を自然につかんだ言葉も!
日本映画のなかでかっこいい言葉ということなら迷わず、市川雷蔵による眠狂四郎のニヒルなせりふが浮かびます。艶のある低めの声もよく、かっこよすぎで笑えるほどきまるんです。「俺は明日のために今日など生きてはおらぬ」、ですよ! 気障で、敵を斬る一方で女から女へと渡り歩き情をかけずに去っていく。せりふや殺陣ばかりでなく狂四郎の在り方は様式美そのものでした。
かっこよすぎの境地は色褪せず。
俺は明日のために今日など生きてはおらぬ
俺は無頼の徒だ
だから平気でおまえを斬れる
『眠狂四郎女妖剣』1964年
柴田錬三郎原作。市川雷蔵主演によるシリーズは4作目の女妖剣で大人気に。転びバテレンを父にもつ狂四郎の出生が解き明かされる。
Comment
「雷蔵は歌舞伎出身で所作もさることながら、着流し姿、自身による上手な化粧にも支えられた麗しさで私にとって唯一の狂四郎。外見と声、言葉のマッチングも最高」
信念を持つ主役と達観した脇役に共感。
70年代くらいまではかっこいい言葉には行間もあって、主人公がキメぜりふを持つなどスタイルがありましたね。日本映画から求心力のあるヒーローが消えたのもあって、せりふまで際立つことは減ったように思います。そして昨今はかっこよさをそれぞれの生き方の中で自然に表現する言葉が心に残るように。
『おくりびと』では本木雅弘が納棺師の仕事を通じ人間的にも変わる役。心に貯めた信念を静かに語るのは素敵でした。脇で寡黙だった笹野高史がいい場面で冷静に死を見つめる言葉を口にしたのはにくい! 2人の対照も興味深いです。
死は門だな
死ぬってことは終わりじゃなくて
次に向かう
まさに門です
普通ってなんだ?
俺だって君だって死ぬんだよ
死そのものが普通なんだよ!
『おくりびと』2008年
故郷に戻り納棺師の見習いとなった大悟(本木雅弘)。徐々に大切なことに気づき、生死観も新たにする。一方、笹野高史演じる隣人は意外な位置で死を見つめる立会人だった。
Comment
「自分も年を重ね人生の終わりへの意識も変わり、真実から目をそらさない言葉によりぐっとくる、とも言えます」
気持ちを言い切るナチュラルの極み。
『サンセット・サンライズ』で菅田将暉が移住先でなかなかフラットに扱われず、思いを受け入れてもらえない葛藤を爆発させた一言も印象的。意識的な言葉にかっこよさが宿るのではなく、思いをこめた言葉がかっこよく響く気がします。
俺はただ宇田濱が好きでこの町に生まれたかっただけ……
なのになんでこんなにせつないんですか?
『サンセット・サンライズ』2025年
コロナ禍に三陸の海辺に借家を見つけた会社員、西尾(菅田将暉)。2拠点生活の中で怪しまれながらも町の楽しいこと三昧、仕事も展開しそして大家の百香(井上真央)に惹かれていく。感極まり思いをぶちまける場面。
Comment
「宮藤官九郎脚色の“泣かせ笑い”なせりふ、正直な言葉にかっこ よさがにじみます」
『クウネル』2026年7月号掲載
イラスト/石川三千花、取材・文/原 千香子
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『クウネル』NO.139掲載
これからを生きるための「言葉の力」。
- 発売日 : 2026年5月20日
- 価格 : 1,080円 (税込)