安野ともこさんが松雪泰子さんの衣装を担当した『フラガール』では、「1シーンを日をまたいで撮影する場合、巻いているスカーフひとつでも前日の巻き方と柄の見え方まで忠実に再現するという繊細さを学び、役柄に合わせて大好きな60年代のヴィンテージ服を直して作ったりと再構築できたことが感激でした」といったエピソードも。『人生、いろどり』では、「最初は質素でも、気持ちが高揚してくるシーンになると服に色を添え喜びを表現しました。生きがいを見つけたことで自分がいつしか魅力的に変化してるって素敵なことですよね」。服の色味も心を映す大切な要素のようです。

一方、観る立場でファッションが印象に残った映画では、まず、トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』（1984年製作。4Kレストア版が2023年全米公開）。「観た当初は衝撃が大き過ぎて思考停止でしたが、今、観直すと、デビット・バーンの、あのビッグショルダー・ジャケットも動きも構成もすべてがファッショナブル」といいます。

また最近の作品では、「『ファッション・リイマジン』はドキュメンタリーとは思えない構成力で、服を作る舞台裏とその事実を教えてくれました。『うつろいの時をまとう』は、デザイナーの堀畑さんと関口さんの服づくりに対する真摯な姿勢に迫った、素晴らしい作品です」とドキュメンタリーをリコメンド。そして最近最も感動した映画『さよなら ほやマン』では、松金よね子さんのファッションに対するリアルなさじ加減を絶賛。

徳島県の小さな町で、シルバー世代の女性たちが草や葉っぱを料理のツマとして販売するビジネスが大成功を収めた実話を映画化。幼なじみの3人（吉行和子、富司純子、中尾ミエ）の衣装が、明るく変化していくのも見所。安野さんが衣装を担当。2012年公開。

英国最優秀新人デザイナーに選ばれたエイミー・パウニーが、賞金でサステナブルなブランドへと変えることを決意し、理想の素材を探して地球を旅して、夢を実現していくドキュメンタリー。「情熱をもって追求し続けるエイミーの姿勢が心地よく、それをやり遂げる行動力が素晴らしい。ファッションが地球にどんな影響を及ぼしているかという事実を教えてくれました」

日本の美意識をコンセプトに独自のスタイルを発信し続ける服飾ブランドmatohu（まとふ）。貴重な職人の手仕事や伝統技術からテキスタイルを作り、持続可能性を目指すふたりのデザイナーのものづくりを５年間追ったドキュメンタリー。「ものづくりは常にうつろいゆくものの探求の連続なのだと気づかされました」

自然豊かな島で生きる漁師の兄弟と都会から来た女性の奇妙な出会いから始まるハートウォーミングな物語。隣家の春子役・松金よね子さんの衣装に注目。「都会に出てファッションデザイナーになりたかったであろう春子さんの叶わなかった夢が、出で立ちの細部に表れていて、その絶妙さがとにかく愛おしいんです」