運命的に出合い、長く使い続けている物が自分にとっての本当の愛用品と言う川邉サチコさん。1970年代から活躍するヘア＆メイクアップアーティストの草分け的存在です。清潔感ある佇まいに、真摯な姿勢で仕事に臨む川邉さんのひとつめの運命の出合いは、60年以上前のこと。結婚を機に美容の世界に飛び込み、23歳で義母と訪れたパリでした。

「石畳をヒールで歩いていたら足が痛くなって。そんな私にフランス人の通訳の女性が『随分気取って歩いてるのね』と言って、動きやすくて素敵な靴があると教えてくれたのが『レペット』でした。楽に歩けておしゃれ、これぞフランス！と一瞬で気に入りました」

帰国後、昭和の日本で多くの人がまだレペットを知らなかった時代、仕事で立ち続ける川邉さんの足元を支え彩り、相棒となったのです。

「優しくフィットして疲れない、まるで足袋のよう。これまで何十足履いてきたことか。今日はどのレペットにしようかしら、と全身を鏡に映しながら考えるのも楽しい時間。足元まで決まると仕事のスイッチも入りますね」そう話す川邉さんを見て、娘の美木ちがやさんが「レペットは足の甲を見せ潔く履かなくてはいけない、履く人の姿勢や人柄が見える一足だと思う」

ふたつめの運命の出合いは、20年以上前に友人の華道家、故栗崎昇さんからニューヨークのお土産でいただいたオーバル型のティファニーのシルバー製手鏡です。

「自分の身支度の最後のチェックで使いますが、サロンのお客様にも使っていただいています。ヘアとメイクを整えた後、その変化ときれいになった自分を見つめてもらうために。そういう格別な瞬間をこの鏡は映してきました。そんなお客様の表情を見ることも私の幸せです」。真摯な川邉さんそのままに月に一度、他のシルバー製品と一緒に磨き上げているそう。「物にも命はある、輝いてこそ生きるシルバーですから」

また、もうひとつの愛用品のアイロンは、仕事に臨む際、川邉さんが長年の心掛けとして使っているものです。「自分が着るシャツやニットは元より、ヘアカラー剤で汚れている作業用のエプロンにもアイロンをかけます。シワのないパリッとした衣類は清潔感も生まれ、気持ちも律することができますから。女の人はいくつになってもきれいでいるために、身も心も整えることが大切。鏡で髪の先まで映して自分を客観的に見つめる、シワのない服を着る。そうあるよう使い続けているのが私の愛用品です」