若き日に心を震わせられた詩の一節。大人になってより深まった書き手の心情への共感。本を通じた敬愛すべき女性との出会いは心の宝物です。6人の女性たちに、それぞれの先達への思いを聞きました。
藤井繭子/ふじいまゆこ
染織家
日本を代表する染織家・志村ふくみさん、洋子さんに師事、草木染の着物が高い評価を得ている。自宅に隣接するアトリエで染めと織りに取り組む。
Instagram:@irotonuno
藤井繭子が励まされた、ターシャ・テューダーの選択
木々の枝葉や樹皮、木の実などから抽出した自然の色で絹糸を染め、美しい布に織り上げる。八ヶ岳の山すそでそんな作品制作にいそしむ藤井繭子さんは、ターシャ・テューダーさんの本をすすめてくれました。ターシャさんといえば、米国バーモント州の山深い里に家を建て、美しい庭や畑を整えて、自然に近い暮らしをしながら、晩年までひとりでの生活を貫いた絵本作家。自然からの恵みを自身の作品の土台にしている藤井さんとどこかつながるライフスタイルに思えます。
「じつは、私はガーデニングやカントリースタイルに強い関心があるわけではないんです。そんな私が衝撃を受けたのは、誰もが見たことのある家や庭をターシャさんが作り始めたのが56歳のときだったということ。もっと若いころからこつこつ作り上げた庭だったと思い込んでいたのですが、4人の子どもを育て上げたあとに、小さいころから憧れていた山奥へひとり移り住んだという情熱に惹かれました」
9年前に鎌倉から夫、一人娘と共に居を移した藤井さん。自身もいまいる場所よりも、もっと自然を深く感じられる山奥へ移動していきたいと感じています。でも、ターシャさんがそうしたように、小学生の娘の成長を見届け、ゆるやかに夢に近づいていく、そんな歩み方もあるのです。心に秘めた思いを大切にしながら、少しずつ実現に向けて努力を続けていく……ターシャさんの生き方は藤井さんをずっと励ましてくれているようです。
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/久々江満(本)、取材・文/石毛幸子、丸山貴未子