うまくいかないことも多いけれど、人生には希望も喜びもあるのです【絵本編集者・末盛千枝子さんの物語】

現在、千葉県の美術館で開かれている『末盛千枝子と舟超家の人々』展。長年絵本編集者として活躍してきた末盛千枝子さんと家族の物語を伝える展示です。

目 次

PROFILE

末盛千枝子/すえもりちえこ

絵本編集者。1941年東京生まれ。’89年「すえもりブックス」を立ち上げ、美智子上皇后の『橋をかける』などを出版。展覧会は6月25日まで、千葉県市原市の市原湖畔美術館にて開催。末盛さんの次男がゲストキュレーターとして、母が手がけた絵本や仕事を紹介。芸術一家、舟越家全員の作品も一堂に展示。

実父に舟越保武、弟に舟越桂、直木という世界的にも著名な彫刻家を持ち、自身は多くの優れた絵本の編集者として長年活躍してきた末盛千枝子さん。それぞれが芸術に関わる家族についての展覧会に、「考えてもいなかった企画で恐れ多いことと思いましたが、人生の終わり近くにこんなことがあってもいいのかな、と思ってお引き受けしました」

「いま思うと、夫の末盛憲彦が若くして突然亡くなったことが、すべてのきっかけだったように思います。NHKで歌番組などを制作し、エンタテインメントの世界の人でしたが、私が関わってきた絵本も、〝人に喜びを与えたい〟ということで、底のほうでつながっていたのだと感じます」

今年82歳。6歳と8歳という幼い男の子ふたりを遺して夫が亡くなったのは末盛さんが42歳のときでした。ちょうど、ある会社が絵本部門を立ち上げるにあたり、それを任せたいと提案され、了承したばかりのころ。

そこから始まった長いキャリア。難病をもった長男とその弟の子育て、編集者としての多忙だけれど充実した仕事、54歳での再婚、代表を務めた出版社のその後の閉鎖と、父の郷里・岩手県への移住。翌年には東日本大震災に遭遇しました。

「家は山のほうなので津波の被害はなかったけれど、ものすごい揺れで」。自分にできることを探って、震災の2週間後には、被災地の子どもたちに絵本を届ける「3・11絵本プロジェクトいわて」を立ち上げ、代表として10年間活動しました。幼くして愛する父親を亡くした我が子と、震災で家や肉親を失った東北の子どもたちの窮状が重なって見えたといいます。

「人生にはうまくいかないことも多く、落ち込んだりもするけれど、何か方法があるかもしれないとじっと待っていたりすると、思わぬ方向からきっかけがやってきたりするのです。ありがたいことに、そんなことの繰り返しで、私の人生は動いてきたように感じます。人はみんなそれぞれ抱えているものがある。私の人生もまだ少しは広がっていくのかな、と感じています」

そんな末盛さんと舟越家の足跡をたどる異色の展覧会、見逃せません。

『クウネル』2023年7月号掲載 
取材・文/船山直子

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『クウネル』No.121掲載

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