藤井繭子/ふじいまゆこ
紬織重要無形文化財保持者・志村ふくみ氏と洋子氏より染織を学び独立。草木の命を人の生に色として残したいという思いから、 絹糸を草木で染め織り、着物を中心に制作。
Short essay :
「日常と着物の時間軸」
2年前、7歳の娘が着た七五三の着物がある。私が茜で染めた濃いピンク色を基調に織り上げたものだ。娘が誕生した時には、繭から引き出したすずしままの無垢な生絹糸でおくるみを織り、3歳の時は茜のピンク色、臭くさ木ぎの実の水色、紫根の紫色を配した格子柄の着物と被布を作った。
貴重な作業時間を個人的な制作に充てることにためらいもあるけれど、染織を生業としている私は、娘の成長の節目を祝う晴れ着を作ってあげたいと思っている。
子の節目は親の節目でもある。娘が7歳頃までは、育児と仕事で混乱した日々を送っていた。13mほどの着尺を一定のリズムで織り続けるには、内外ともに静けさが必要だが、その時間を確保するのに苦労した。
それでも続けてきたのは、人の “生”に寄り添う織物を作りたいからだ。 私自身も20年前の自作の着物を着続けている。当時とは体型も心境も異なるが、着物はどんな時でもありのままの自分を包み込んでくれる。
思うように事が進まず、焦ったりイライラする日々も、長い目で見ることの大切さを教えてくれるのだ。 着物には特有の時間が流れているように思う。
次の娘の十三詣りは、7歳の晴れ着を仕立て直して着せるつもりだが、その時は子と親でどんな節目を迎えるのだろうか。 日常と着物、それぞれの時間軸が交差したところで人生の機微に触れる。
文/藤井繭子 写真/久保田千晴