【本が教えてくれた憧れの人の生き方】脚本家・浅野妙子さんが魅了された津島佑子さんの自由さ

若き日に心を震わせられた詩の一節。大人になってより深まった書き手の心情への共感。本を通じた敬愛すべき女性との出会いは心の宝物です。6人の女性たちに、それぞれの先達への思いを聞きました。

浅野妙子さんが魅了された、津島佑子の自由な魂

悲しみについて』津島佑子
2017年に始まった津島佑子コレクションの第一回配本。息子の死の翌年から書き綴った7
作を年代順に編纂。劇作家の長女、石原燃さんの解説も胸を打つ。3,080円(人文書院)

昔から津島佑子さんの小説が好きで、『純情きらり』というドラマを書くときに原案として使わせていただきたいとお願いにあがったことがあります。お会いしたのはその一度だけですが、自由で温かい人柄に強く惹かれ、出版される本を追い、遠くからずっと見つめ続けてきました」そう話す浅野妙子さんは、津島さんの没後に編纂された連作を紹介。歳で失った息子や15歳で急逝した兄のことを書いた話が紡がれています。

津島佑子さん
津島佑子 ©Kodansha/アフロ
1947年~2016年。『光の領分』『夜の光に追われて』『ナラ・ レポート』など、読み応えのある多くの文学作品を残す。母親の一族を描いた『火の山─山猿記』はドラマの原案に。

「津島さんは1歳のときに父である太宰治さんと死別するのですが、3歳上のダウン症のお兄さんととても仲良しだったんですね。そこに偏見はもちろん、ネガティブな感情はまったくない。美化しているわけではなく、彼女は世の中の常識や大人の計算などと肌があわない人だったのを感じます。

闘って自由を選んでいるのではなく、魂が自由というのか。もしかすると太宰さんのDNAなのかもと勝手に想像するのですが。息子さんの死に際しても、そんなことは信じないという怒りを持った覚悟から始まり、なかなか悲しみの感情には至らず、息子の幻影を見つけ出そうとしていきます。私はこんな話を他に読んだことがありません」本の中には家族で暮らした家の話や夢の話が何度も出てきて虚と実が混在。

「息子や兄はそこにいて、自分にはそれを見つめ直す幸せがある。津島さんの話はわかりやすくはないけれど、人は死んで終わりではない。死は生の中に浸透していることを教えてくれます」

『クウネル』2023年1月号掲載

写真/久々江満(本)、取材・文/石毛幸子、丸山貴未子

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