エッセイストの広瀬裕子さんは57歳になり、ヘアカラーをやめ、シルバーヘアにしてみようと思ったそう。その過程をクウネル・サロンで寄稿してくださいます。今回はその決意のきっかけについて。
広瀬裕子/ひろせゆうこ
エッセイスト、設計事務所共同代表。「衣食住」を中心に、こころと体、空間、日々の時間、食べるもの、使うもの、目に見えるものも、見えないものも、大切に思い表現している。50歳から新たに空間設計の仕事をはじめ、現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどのディレクション、フードアドバイス等にも携わる。著書に『55歳 おとなのまん中』(PHP研究所)など多数。東京、葉山、鎌倉暮らしを経て、いまは香川と東京を行き来する。Instagram:@yukohirose19
旅先で、シルバーヘアの女性を見かけたのは1年前のこと。シックな着こなしに白い髪。思わず「すてきですね」と声をかけた。その時、その方が教えてくれたのは、シルバーヘアにするのに2年かけたこと。髪の色を変えたら「楽しい」ということ。おしゃれの幅が深くなったこと。などだった。そして「あたな、シルバーヘア似合うと思うわよ。やってみて」という言葉を、笑顔とともに渡してくれた。
わたしは、その言葉を1年近く、抱きながら過ごした。町で見かけるシルバーヘアの似合う人を見れば「よしっ」となり、寝起きにカガミを見ては「うーん」となり。こんなことで気持ちがゆれることを、数年前には想像していなかった。もっと、かろやかにさらりと次の選択ができるものと思っていた。でも、現実には「思春期か」と自分につぶやくほど「どうしよう」と思うことも度々だ。けれど──とうとう、この春、思った。「うん」と。
先日、通っているサロンの方にカラーリングを止めてみようと思っていることを告げた。髪の毛がシルバーになるだけで、すてきになりたい気持ちを手放すわけではない。カラーリングはいつでもできるし、髪の色が変化しても、ダイアン・キートンも、ジョディ・フォスターもすてきではないか。こういう時、先をゆく歳上の女性たちは、いつも力をくれる。
【#01】
サロンの方が教えてくれたのは、シルバーヘアへのスムーズな移行は、白い髪がある程度の長さになった時点で、そのラインに合わせ髪をカットする方法だった。ベリーショート。でも、わたしの描くイメージは少しちがった。あごのラインに合わせた長さでやわらかな感じにしたい。いつでも予定変更可能の( )つきで、シルバーヘア計画をすることにした。( )の中は、常に臨機応変に。
誰しも歳を重ねていく。その速度は、ひとりひとり違うけれど、それぞれが「それまでのわたし」と「いまのわたし」の変化を経験する。そこに立った時、はじめて、その年齢の思いや感じ方を理解する。そんな中で「こんな方法があるんだ」「これもいいかも」と選択肢が増えることは、世界も、自分も、自由にしてくれる。
【#02】
大事なのは、──わたしの場合は、シルバーヘア計画は、シルバーヘアになることが目標ではなく、気持ちよく歳を重ねていく過程のひとつとしてシルバーヘアもあるかもしれない、ということだ。
シルバーヘアになっていく様子をこれからしばらくお届けします。ブリーチしたり、色を入れたり、髪を伸ばすのを止めたりするかもしれません。ゆれ動く気持ちとともに、その時のその時の様子をお届けします。
ヘアカット・撮影/薫森正義(Rougy)
http://www.rougy.jp/
Instagram:@magemori