主婦歴50年と大ベテランの坂井より子さん。2022年2月に新刊『飾らない。76歳、坂井より子の今を楽しむ生き方』が上梓されました。
坂井さんにとって3冊目となる本書。いままでよりも深く、これまでの人生のことなども綴られています。また、なかには夫やふたりの子どもたちからの言葉もあり、坂井さんの生き方、暮らしぶり、笑顔の秘訣を垣間見ることができます。
著書には59のエッセイが収められていますが、その一部をシリーズでご紹介。シリーズの最後には、坂井さんの特別インタビューも掲載予定です。どうぞお楽しみに。
2022年の1月で76歳になりました。
昨年はちょうど、結婚50周年。
この50年を振り返ると、本当にあっという間だったなぁと思います。
これまで、主婦としてごくごく平凡な日々を過ごしてきましたが、私が一番大切にしてきたことは、毎日、愛情を持って作った食事を、家族と一緒に食べること。
それが、今の私と家族の健康をつくっていると実感します。
そしてこれまでに出会った人たち、経験したことは、すべて「ご縁」。
これまでのご縁が今につながっているから、無駄なことはひとつもありません。
物事のとらえ方を少し変えてみるだけで
嫌だなと思ったことも、自分のためになる経験に変わる。
76歳を迎えた今、そんなふうに思っています。
※「はじめに」より抜粋
結婚したばかりの頃から、夕食は家族揃ってきっちり時間どおり。
判を押したように定時に食べ始めるので、友達からは「3チャンネルの家族」なんて呼ばれていました。
3チャンネルは当時の教育テレビ。そんなつもりはなかったけれど、模範的なふうに見えたのかしらね。
主人は早ければ夕方5時半に帰ってくるんですよ。団塊の世代ですから終電帰宅が珍しくなかった頃にね。
お友達は6時でも平気な顔をして遊んでいるんですけど、私は4時をすぎると夕食の支度を始めなくてはと思ってそわそわし始める。
よその家がうらやましく見えたことも何度もありました。でも主人はたまたまそういう職場環境にいる、だからこれが私に与えられた環境なんだわと思って。
気づけばそのスタイルが当たり前になって、今も続いているんです。
家族で食卓を囲む時間をしっかりつくっておけば、それ以外は別々に過ごしていたとしても心配にならないでしょ。
一緒に食べることを大事にしたいので、夕食作りに一番手間と愛情をかけるのもそのため。主人の帰りが遅くて子どもたちとは別々に食べていたとしたら、2回台所に立って料理をして、洗いものも2回しなくてはいけない。それはやっぱりストレスが積もっていっただろうなと思います。
娘の真理子が中学受験をした時も、塾通いよりも家族で夕食を食べることを優先しました。
勉強も大事だけれど、暮らしと天秤にかけることではないと考えていたから。
特に受験の準備はしていなかったものの、小学校6年生の時の担任の先生が勧めてくださったこともあり、鎌倉にある学校を受けることになったんです。
大学受験に力を入れる進学校とは少し趣が違って、普段の学校の勉強ができていれば大丈夫とアドバイスをいただいたので、結局塾には行きませんでしたね。
本人が行きたいと言えば行かせたかもしれませんが、親としては塾通いで一緒に夕食が食べられないのは違うかなと。
運よく進学できたので、結果的にはよかったと思います。でもそうね、もしも塾に行かせるなら、夕食以外の時間帯で勉強できる塾を探したんじゃないかしら。
※第2章「変化する家族の姿」より「3チャンネルの家族」
坂井より子/さかいよりこ
1946年生まれ。2人の子どもの母、3人の孫の祖母で、神奈川県葉山町に三世帯9人で暮らす。子育てが落ち着いた40代後半から15年ほど、自宅で料理教室を主宰。主婦歴50年の経験から生まれた暮らしの知恵や、人生を軽やかに生きるコツなどが、若い世代を含む幅広い年齢層に支持されている。
※本記事は『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』からの抜粋です。
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飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方
主婦歴50年の坂井より子さんの3冊目の著書でこれまでの人生を深く綴った初めての本となる。夫との出会いや子育てののこと、3世帯暮らしとなってからの心境の変化や、家族9人分の食事づくりのことなどが紹介されている。
『飾らない。76歳、坂井より子の今をたのしむ生き方』(家の光協会)
写真/枦木 功 取材・文/片田理恵 再構成/結城 歩