リレー連載【住まいと暮らしvol.004】人気イラストレーターが私生活で描くミニマムで簡素な世界―奥村麻利子さん

リレー連鎖「住まいと暮らし」_奥村麻利子さん

部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。恩田登喜枝さん(前回はこちらより)のバトンを受けてご登場いただくのは、「mitsou(ミツ)」の名で活動する、人気イラストレーター奥村麻利子さん。アパレルブランド『chiclin』のディレクターを務める旦那さまとの二人暮らしは、じつに簡素で無駄がなく、美しい世界観が広がっていました。

麻利子さん・暮らしのルール

リレー連鎖「住まいと暮らし」_奥村麻利子さん

1)帰宅後は即、部屋着に着替えてリラックス
2)食事はなるべく手作り。でも、おサボリも大事
3)二日ある休日のどちらか一日は、家で休む

30代頃までは、自身の中にこうありたいという理想が強くあり、それに近づこうと決まり事をたくさん作って「まじめに、頑張っていた」という麻利子さん。でも、いまは少し違います。ご主人とともに、服と小物を扱うアトリエショップ『chiclin』をスタートしたこともあって、暮らしのリズムやルールを見直すようになったそう。

「年齢とともに体も疲れやすくもなってきましたし、長く続けていくためには、あまり自分を縛らず、しなやかに考えていこうと思うようになりました。例えば普段は、玄米や野菜中心のヘルシーな食生活が基本ですが、疲れているときや気分が乗らないときは無理して作らず、近所でさっと外食したり、出来合いのお惣菜を買ってきて、夫婦でおいしくいただきます。いまは、いただくイラストのお仕事はもちろん、chiclinに関わってくださるお客さまや作家さん、家族や友人に感謝しながら、なんでも楽しんで取り組むことを心がけています」。

麻利子さんが持つもうひとつの大切な名前『mitsou』は、画家・バルテュスの絵本「MITSOU」に由来しているそう。「この絵本自体好きなのですが、表紙に使用されているグレーがかったブルーがすごく好きなんです。織作家の中島寛子さんの個展会場で購入したストールも、それに近い、美しいブルーグレーに惹かれました。本連載でバトンを渡してくださった『ocaille』で以前展示をさせていただいた際、ポストカードセットを作ったのですが、その時もこれに似た色を探しました」

麻利子さんが20代の頃に買ったという、オーガニックコットンの白いクマのぬいぐるみ。「長い時間一緒にいるのでもうボロボロで、”手術”という名のお直しも何度も経験済み。白くて、丸くて黒い目がかわいい、大切な宝物です。このくまちゃんは、私が描くイラストにもたまに登場します。ソファーは今のマンションに引っ越ししてしばらくして買った『アルフレックス』のもの。小ぶりなので、テレビを見るときなど位置を少しズラすのも簡単で、白いコットンのカバーはお洗濯できていつも清潔を保てるところが気に入ってます。でも、このソファもくまちゃん同様、少しくたびれてきたのでそろそろメンテナンスが必要かな、と思ってます」 

「玄関は、ほっとできるお家の入り口だから、好きなものを飾りたい」という麻利子さん。展示会で買い求めた伊勢崎晃一郎さんや岩田圭介さんの器、よくかぶる帽子(夏はコットンや麦わら、冬は毛糸の帽子)が並び、壁には好みの絵が飾られています。「右の飛んでいる二羽の鳥の絵は、ocailleの恩田さんにいただいたもの。左の小さな額はアンドレア・ティッペルのニワトリのポストカード。やっぱり、ocailleで本を購入して以来興味を持ち、その後カードを見つけて購入しました。恩田さんには、知らない素敵なことを教えてもらったり、いい刺激をいただいているなぁと、常々思います」

シェーカーボックスには化粧品を収納。絵は、牧野伊三夫さんの2001年のドローイング。「以前、銀座にある『月光荘画材店』で働いていまして、そのギャラリーで牧野さんが個展をされたときに、自分の結婚記念に求めました。ここの壁には、その時々で好きな絵を飾ることにしています」

麻利子さんが心待ちにしているのが、お休みの日の朝食。 「といっても、特に変わったことはしないんです。いつもよりゆっくりコーヒーを飲んで、ヨーグルトに好きなジャム、パンだけのシンプルな朝ごはんです。パンはいつも、chiclin近所のパン屋さんでクロワッサンと食パンを。ジャムは、chiclinでもイベントをしている『小匙ジャム』のものや、気になるお店からお取り寄せしたりと、いろいろ。写真のジャムは、赤いベリーと薔薇のジャム。マグカップは岩田圭介さんのもので、朝ごはんの時だけはトレイも使います。昼と夜はランチョンマットなんですが、いつしかそうなっていました」

麻利子さんの仕事部屋の隅っこには、大好きな箱コーナーが。「ブルーの箱は、高校生の時から憧れていた『smythson』 のもので、昔の手紙やアクセサリ類を入れるのにちょうど良いんです。お菓子の『suchea』さんの缶は、クリップなどの細々としたものを収納。エルメスの箱のオレンジの色は美しいので、中は空っぽなんですがとっておいています」

以前、レストランで展示会をしたとき、大きな冷蔵庫の目隠し用に作ったという白いボード。「便利なので、今でもキッチンの壁の部分に立てかけて、ザルや鍋敷きなどを引っ掛けて使っています。じつはこのボードの後ろはボイラーの扉で、やっぱり自宅でも目隠しの役目を担ってくれています。インテリアは、少しだけほっとするところがあったり、ユーモアがあったり、古さと新しさが、いい具合に融合しているようなものが理想です」

ここ数年、中国茶がとても好きになったという麻利子さん。中でも友人から教えてもらって知った、西荻窪の『サウスアベニュー』は、おいしいお茶の宝庫だそう。「そんなに頻繁に伺うわけではないんですが、いつも何かしら自宅にストックしています。暑い時季は、大好きなアイスジャスミン茶を冷蔵庫に作り置きしておいて、リラックスしたい時に飲みます。ひんやりと体に染みて、ジャスミンの良い香りが気持ちを楽にしてくれます。他には、生茶プーアルや白茶あたりも、お気に入りです」

現在のマンションには、約十年前から住んでいるという、麻利子さん夫妻。旧家近くの古いマンションを購入し、最小限のリノベーションを施して住み始めたそう。「斜めになっている高い天井や、広いリビングが購入の決め手でした。当初、大きな壁面には本棚を作り付けてもらおうと思っていたのですが、割と高くつくことが判明して。ならばと思い切って、憧れだった『vitsoe』のシェルフを設置してもらったんです。本は幼い頃から大好きで、小説や画集などは増える一方ですね。海外旅行でも、装丁の美しい本を見つけると、つい買ってしまいます。それに加えて、好きな映画は、端々まで覚えてしまうくらい何度も鑑賞するタイプなので、DVDも購入……。そんなこんなで、十年前はゆとりがあったはずの棚も、いつの間にかぎゅうぎゅう。夫婦ともに大好きな小説も、たくさん並んでいます」

手帳は英国発のブランド『SMYTHSON(スマイソン)』を愛用。「まだ日本で売っていなかった頃は、イギリスに留学していた友人に買ってきてもらったり、申込書をエアメイルで送って買っていました。表紙の革の柔らかさ、中の紙の上品な色、軽さ、やっぱり好きです。私は携帯しやすい『wafer diary』という、ちびサイズのものを愛用していますが、毎年いろいろな色が発売されるので、今年は何色にしようかな、と選ぶのも楽しみのひとつですね」

仕事部屋のデスク前の壁には、お気に入りの雑誌の切り抜きや、絵の具の色見本、好きなポストカードなど、麻利子さんの”好き”が集結。「時々レイアウトや貼るものを変えながら、気持ちも整理します」

スキンケアも、シンプルが基本。『verteueux(ヴェルトゥー)』の石鹸とスプレー式のローション、フェイスオイルを愛用。「石鹸は種類豊富なので、季節やそのときの肌の状態で選んだりもします。ローションは、ほんの少しお酢に似た香りがあって、最初びっくりしましたが、だんだん病みつきに。乾燥が気になる冬場は、もうひとつのレミューオイルを重ね付けしたり、他のブランドのクリームを併用したりもします。ここのメーカーは、独特の香りのセンスが私に合っている気がします」

以前から、部屋着やパジャマだって手を抜かず、上質なものを着ている人に憧れがあったという麻利子さん。でも、実際、その憧れに近づくまでには、時間がかかったそう。「外出着はすっごくおしゃれなのにお家に帰ったら上下スウェット、あら残念、というのではいやだなぁって。でも、そうは言っても、なかなかそこまで心の余裕が持てなくて。そんなとき、マーガレット・ハウエルの夏用の部屋着がちょうどセールに出ていたので、思い切って買ってみたら、気持ちが潤いました。それからというもの、本当にちょっとずつ、二年に一度くらいの頻度ですが、これぞと思うものを新調するようになりました。今年はネイビーのリネンのパジャマパンツを買い、chiclinのTシャツとともに、寝巻きにしています。隣に並ぶ靴下は、『fogal』のカシミアコットン地。夏は素足で過ごすのが好きですが、冷房で体が冷えてしまったときに重宝します。冬は、コットンのニーハイソックスが愛用品のひとつで、ニーハイ特有の包み込まれるあたたかな履き心地がお気に入りです。質の良い靴下も寝巻も、私にとっては贅沢品なので、少々穴が空いたりほつれたりしても繕って、大切に着ています」

晩秋は、大好きなカシミアストールを丁寧に手洗いして、来たる冬に備えるという麻利子さん。愛用品は、野上美喜さんと、中島寛子さんの手織りのストール。「彼女たちとは、もうずいぶん前からのお付き合いで、chiclinでも素敵な作品を販売させていただいてます。いい香りの洗剤で手洗いして日陰で干すと、ふわふわと毛が立って、それはそれは気持ち良い手触りになるんです。このふわふわ感は、きっと手織りならではのものなんだろうなと思います。外出時にはもちろん首に巻き、部屋の中ではひざ掛けやカーデイガン代わりにしたりと、出番が多い逸品です。寒いのは苦手ですが、彼女たちのストールをみると、冬の訪れが待ち遠しくなります」

「家の中で一番のお気に入り」と、麻利子さんが断言する、洗面スペース。麻利子さん宅を象徴するような、簡素で無駄のない佇まいが特徴。「住むときに、パーツだけこちらで選んで、ごくシンプルに作ってもらいました。学校の手洗いみたいな雰囲気が理想だったので、この仕上がりには大満足です。洗面台を大きくしていただいたので、衣類なども洗いやすく、重宝しています」

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麻利子さんがバトンを渡すのは、chiclinの展示会などでもお世話になっているという、静岡の素適なお店『sahanji+(サハンジプラス)』の店主・河村奈穂さんです。9月中旬の公開日をどうぞお楽しみに!

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