【気持ちのいい人生を歩く練習4】「こんなお母さんでごめんね、ってかつては思ってました」

引田かおりさん

『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社)を上梓した引田かおりさんのインタビューをお届けします。長らく家族を優先して暮らし、自己肯定感に乏しかったという引田さんが、「NO」という練習を重ね、自分自身の「好き」を優先した先にみつけた気持ちよさについて、話を伺います。

●ここまでの話
◎1 愛犬の死を乗り越えて。すべての不幸の源は、執着なのかも?
◎2 自分の宣伝を声高にしない人ほど、すごい仕事をしてきた達人かも?
◎3 ふくらんだ情熱の風船がしぼまぬうちに


ーー 『「どっちでもいい」をやめてみる』 の冒頭に、「もし生まれ変われるとして、新たに欲しい能力は迷わず自己肯定力」という趣旨のことが書かれていて驚きました。ギャラリーとパン屋さんを営み、著書をたくさん出して、キラキラしたイメージだったので……。

引田かおりさん(以下、引田):20歳で11歳年上の夫と結婚して、すぐに二人の子供を出産して、 いつも 「事実」が自分の実年齢よりも先みたいな感覚を長らく続けてきました。 だからどうしても、実際の暮らしに自分の内面が追いついていかないということが多々あって……。夫も随分と年上だから、やっぱり世間知らずだっていう目で見られるんですよね。それで私が青臭い、正義とか愛とかを語ると、「そんなことを言ったって実際の社会じゃ通用しないぞ」とか諭されてしまうんですよね。

ーー理想が高い分、現実のギャップが人より大きかったのかもしれませんね。

引田: そうですね。すごい考えるのが好きな性格だから、ぽんっと理想を考えちゃうわけですよね。たとえば世の中にはこんなに困ってる人もいて、自分は屋根のあるところで暮らせていて、きょうのご飯を心配するわけでもないんだから、なんか社会還元しなきゃみたいに思うわけですよ。 でも、じゃあ、ある晩、家のチャイムが鳴って「今晩、泊めてください」って見ず知らずの人にお願いされたら、やっぱりどうぞって言えないだろうなという自分があり……。

不自由な20代、30代を経て

ーーそこのギャップに悩んでしまい、自己肯定感も下がってしまったんですね。

引田:自分の点数は低かったですよ、長らく。きっと頭でっかちだったんですね。子どもたちにも、こんなお母さんで本当にごめんなさいってずっと思ってた。心配性で、「こうなったときはどうしよう」とか、起きてもいないことに対してすごく悩んでしまう気質だったんです。専業主婦でしたけど、主婦も向いてないし子育ても向いてないと思ってたから、体調もくずしてしまいましたね。

ーー不自由な20代、30代だったんですね。

引田:ものすごく不自由ですよ。今振り返ると、人生、損したなって思いますよ。

ーー私も含めて、読者のみなさんは引田さんのキラキラした部分しか知らないから、「本当に?!」って思うはずです。

引田:だからこそ「人は変われるのよ」って言えるじゃない。

ーーなるほど。

引田:もともと全然ポジティブでもないし、「まいっか」って流せる性質ではなかったのですが、歳や経験を重ね、「まいっか」っていう部分を増やしていけるんだなと。

ーーターニングポイントは、ギャラリーとパン店を開業したときですか?

引田:そうですね、それは大きいと思います。夫が会社を早期退職するって言ったときにパン屋とギャラリーをやるって決めて突き進んだじゃないですか。それがもし失敗していたら、また上書きしてたと思うんですよ、「私やっぱりダメだわ」って。でもそこで、おかげさまでうまくいって、「私、これ向いてるかもって」思えることが重なり、やっぱり自信はもらえましたよね。

引田かおりさん
ギャラリーから事務所に続く廊下。『ギャラリー フェブ』はコロナ禍において、現在はオンラインショップというかたちで運営中。不定期で、さまざまな楽しいものを提案している。

ーー始めるにあたって、ギャラリーとパン店以外に、選択肢はあったんですか?

引田:ないです。夫は「ラーメン好きだからラーメン屋をやろうかな」ぐらいのノリで。お店をやることに憧れていて、なんかやりたいみたいなことは言ってたんですよ。でも私は実家が商売屋だったからすごい嫌で。どんなに大変か全然わかってないよね!って思っていました。でも私もパン屋さんできたらいいな、ギャラリーできたらいいなと、直感的に思ったんですね。そうしたら、すごい力が湧いてきました。そして、たくさんの方に助けていただき実現し、気づけば18年です。

選択するということは責任を持つということ

ーー「こんなのいいな」という、引田さんの直観力が発揮されたんですね。

引田:男の人たちのなかだと直感て理解されにくくて、論理的に理由とか裏付けとかを述べよって言われたら窮してしまうし。「女性はそうやってすぐ感情論に走る」とか言われるわけですよ。 そういうやりとりを何度も何度も経てきて、でも嫌なものは嫌だと言えるようになり、その思いが通るようになってきたんです。

引田かおりさん
「親にも上司にも友人にも好かれたいし、褒められたい、認められたい。そのことを優先していると、大切な自分の本心がどんどん深い沼に沈んでいってしまう。だから、まずは『どっちでもいい』をやめてみるのはどうかしら?」と引田さん。

ーーそれこそ「どっちでもいい」じゃないんですね。

引田:そうです!何でもいいとかどっちでもいいっていうタイプではなかったんですね。

ーーどっちでもいいっていうと、ちょっと責任から逃れられたりするところを、「こっち!」と選択することで、ひとつひとつ、真面目に責任を負ってるところが、すごいですよね。

引田:そうなんです。そういうふうに自分でしてきたんだろうなと思いますね。だから失敗もあるし間違いもあるんだけど、それがすごい学びになる。自分で責任をとるっていう覚悟がやっぱり、日本人といったら大げさですけど、ちょっと大人たちに希薄じゃないかしら?と思うこともあります。

ーー「みんながそうしているから」とか、空気を読んで「そういうもんだから」とか。

引田:そうですね。でも、だんだんやっぱりそうじゃない生き方、たとえば、「私は結婚しない」とか、はっきりみんながものを言いだすと、気持ちいいって思いませんか。自己肯定感が低くて、ネガティブな感情もいろいろ湧いてきてしまうけど、どんな自分でもそれをなかったことにしないことですよね。ちょっと嫌だけど、そこをじっくり見て、じゃあ自分を幸せにするには、あと何が必要なんだろう?、どうすればいいんだろう?っていうことに気が付けばいいですね。あとは、本でも映画でも、いろいろな人がさまざまな方法を提案してくれているので、幸せになれるよっていうのを伝えられたらなと思って。

→インタビュー後編に続きます。


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聞き手:鈴木麻子

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