読書や本を眺める時間をこよなく愛するフランス人。長期に休むバカンス先が、もっぱら最大の読書タイムのよう。本の世界で旅したり、他人の人生を生きたりと、おしゃれなフランス人も本の世界で想像を膨らませています。
ジェーン・バーキン/Jane Birkin
歌手・女優
ジェーン・バーキンの私的日記『Munkey Diaries』が、60、70年代の貴重な資料として高い評価を得ている。A.P.C.でコラボしたセーターやシャツも発売中。
作家 のプルーストは 、セルジュに似ているの
フランスのセレブファミリーの中で、半世紀以上も脚光を浴び続けているジェーン・バーキン。その大人の魅力の源は、いったいどこから来ているのだろう。どんな試練にあっても、決してくじけることなく、自分のスタイルを貫き、繊細な優しい歌声で人々の心を揺さぶり、癒してくれる。ジェーン・バーキンというアイデンティティを作り上げるひとつの糧には、彼女がつねに傍に置く本から得る知識であり、感性なのではないだろうか。風のように自由に気持ちを表現するジェーンは、イギリスで生まれ育った子供時代、どんな本を読んだのだろう。
「チャールズ・ディケンズの『オリバー・ツイスト』や『大いなる遺産』を読み、ストーリーに引き込まれ、ワクワクドキドキしていました」どちらもイギリスの貧富の差をリアルに描き、現実に負けない子供の姿を描いた大作。大人になってからは、「チェーホフの『桜の園』には、時代の変化に対応し、時に自分を変えなきゃいけないという大切さを教えられました。トルストイの『アンナ・カレーニナ』は、貫いた恋の辛さに涙を誘われました」。そして何度も繰り返し読み、今も読んでいる〝生涯手放せない〟本とは。
「プルーストの『失われた時を求めて』を何度も、何度も読んでいます」ジェーンの娘であるルー・ドワイヨンのパートナー、ステファン・マネルが挿絵を描いた『ムッシュー・プルースト』(日本版は絶版)を、ルーに勧められて読み、プルースト自身に興味がわいたそう。
「プルーストの家政婦だった人が、彼の日常について書いたものなんだけど、とてもこだわりの強い男性だったらしく、そこがセルジュ(・ゲンスブール)ととても似ていて……。セルジュと暮らした日々もロマネスクでプルーストの世界にとても近かったせいか、この本を繰り返し繰り返し、もう2年も読んでいるのに終わらないんです」
夢見る少女だった時代には、孤児オリバーの冒険小説を好み、大人になってからは『アンナ・カレーニナ』や『桜の園』に感動し、繊細な人間関係を綴ったプルーストを生涯大切にするジェーン。その言葉から生の心の動きが伝わるかのよう。また家族が関わった本を大切にするところも、彼女らしい一面。好きな本の話の中に、75歳になっても少女らしさを失わず、エレガントに生きるジェーンの素顔が垣間見えた気がする。
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/梶野彰一(ジェーン・バーキン)、篠あゆみ、久々江満(本)、コーディネート/石坂のりこ、鈴木ひろこ、文/エッセイスト・村上香住子