【高山なおみさんの日々ごはんvol.2】いつもそばにある、母の存在

日々ごはん 高山なおみ 11月の日記

料理家・高山なおみさんが自身のウェブサイト「ふくう食堂」に綴る日記を収録した、人気エッセイシリーズ『帰ってきた 日々ごはん』。2002年に『日々ごはん①』の日記がスタートし、神戸に拠点を移した4年目の夏から冬にかけての日記を綴った最新刊『帰ってきた 日々ごはん12』で24冊目。今年で日記を書きはじめて20年を迎えました。

静岡県に暮らす90歳の母親との別れ、生きることと死ぬことについて綴った本書から、3回に渡って日記の一部をご紹介。2回目の今回は、11月の日記から。心の動きを感じたままに書き留めた高山さんの文章が、鮮やかに情景を写し出します。


■2019年11月3日(日)の日記より


六時半に起きた。
カーテンを開けると、ベッドの脇の壁がオレンジ色に染まった。
絵にも映り込んでいる。
それは、中野さんが描いた少女の絵なのだけど、私は母だと思っている。
母が息を引き取る前に見せた表情に、そっくりなので。
顔のまわりの色が、ふだんは燃えるようなオレンジ色なのに、今朝は黄色に見えた。
母が亡くなったのは夕方だったから、夕焼けの色だと思い込んでいた。
こんなに黄色かったのか。
絵は、本当に不思議。
見る方の気持ちで、いつも変化する。
気持ちというか、視覚によって、
今朝はなんとなく、母に祝福されているような気がした。
「なーみちゃん、よかったね」

ゆうべ、寝る前に『ふたごのかがみ ピカルとヒカラ』を読んで、少しだけ気になるところが出てきた。
朝起きて、どうしようかな……と思っていたのだけど、朝風呂から上がって、ふと雲を見て、やっぱり直したくなった。
ダミー本をもういちどゆっくり読み返す。
絵本の読み聞かせをするときは、「隙間が空いたところでは、読む方もひと呼吸おいて、ゆっくり読むの。大きい字のところは、大きく、はっきりと、区切って読むさや」と母に教わったので(このときのことは、今校正中の『帰ってきた 日々ごはん⑥』に出てくる)、その通りにしてみた。
そうすると、絵本の中の空気が広がる。
読んでいる方も、聞いている方も、絵に浸ることができる。
そうか。今ごろ気がついた。
ありがとう、お母さん。

日々ごはん 高山なおみ 11月の日記2
『帰ってきた日々ごはん12』アルバムページ(2019年11月)より

夜ごはんは、味噌ラーメン(ゆうべの小松菜とほうれん草のにんにく炒め、ゆで卵、ねぎ)。

※本記事は『帰ってきた 日々ごはん12』(アノニマ・スタジオ刊)からの抜粋です。

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プロフィール写真/枦木功 再構成/赤木真弓

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