コロナ禍を通して、世の中が大きく変わりつつある昨今。かつての仕組みや方法が通用しなくなったとき、私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。
ライター・編集者の石川理恵さんが30代〜70代の道なき道を探る人たちに、仕事や住まい、家族について話を聞いたインタビュー集『時代の変わり目を、やわらかく生きる』から、マチュア世代3人のインタビューの一部をご紹介。ここからは、この本ができた経緯や伝えたいことについて、石川さんに2回に渡ってお話を伺います。
これからの時代の生き方
vol.1 「tottori カルマ」店主、丸山伊太朗さんの横並びの働き方
vol.2 50代、未経験から台湾で働くー日本語教師・阿部恵子さん
vol.3 ライフステージとともに変わる、家族のあり方ー村上康子さん、誠さん
■将来に不安を抱える世代に”共有”という考え方を
━━やわらかく生きるという今回の本は、どのようにして生まれたのでしょうか?
石川理恵さん(以下、石川):私は普段、自分の憧れる生き方、暮らし方をしている人を取材しています。この本の前に『身軽に暮らすーもの・家・仕事、40代からの整理術』という本を作ったのですが、もともとその第2弾を作るというところから企画がスタートしました。
私は40代、ずっと不安だったんです。30代までは自分の仕事を確立することと子育てに必死でしたが、40代になってやっとやりたい仕事ができるようになったときに、お金がついてこなかったんですよね。仕事を続けていれば、毎年海外旅行に行ったり、好きな家に住んだり、そんな暮らしができるんじゃないかと思っていたのですが、そんなことはなかった。だんだん景気も悪くなり、所有の時代から共有の時代へと言われはじめたとき、「それって丸さん(「tottori カルマ」の丸山さん)がずっとやっていることじゃないか」とつくづく思ったんです。
━━確かに、丸山さんはみんなで分け合う生き方をされていますね。
石川:私は“心が広くて頑固な人”が好きなんです。環境に対しては柔軟でありながら、自分を持っている人のことです。まさに丸さんは、みんなのことを受け入れながらも、ここぞというところで譲れない部分がある。そういう人がすごく好きで、頑固だけどやわらかい人を取材したいというのが、この本の始まりでした。
タイトルにもしている“やわらかく生きる”というのは、これからの時代すごく大事なことだと思っているんです。私は、ひとつの業界でずっと仕事をしていたので、歳をとってから今のような働き方ができないかもしれないという不安があったんですよね。そんなときに、若い人と混じってニコニコしながら接客業で働いている年配の方を見かけて、なんかいいなあと思いました。そして、私はこの先、世の中でちゃんと通用していけるのかなという視点を持ちました。世の中に合わせて生きていけるようにしたい、そのためにはやはり「こうでなくちゃ」をどんどん手放していきたい。
将来が不安な人は多いと思います。じゃあどうしたらいいかと考えたとき、”共有”というキーワードをずっと実践されている丸さんを取材すれば、何かわかるのではないかと思いました。
━━丸山さんのされていることは、お金を使わずにできることを交換する、サステイナブルの考え方にも近い気がしました。
石川:そうなんです。実は元々は、「ヒッピー世代から教わること」という企画名だったんです。協力しあう、必要以上のものは壊さないという思想がヒッピー世代にはあって。私は「カルマ」は日払いだったと聞いて、すごくびっくりしたんです。スタッフを信頼して横並びで一緒になにかをする、そういう丸さんのような生き方がこれから先の時代、すごく大事なんじゃないかと思います。
石川理恵/いしかわりえ
ライター・編集者。1970年東京都生まれ。雑誌や書籍でインテリア、子育て、家庭菜園などライフスタイルにまつわる記事、インタビューを手がける。著書に『10年着るための衣類ケアブック』『身軽に暮らす』(ともに技術評論社),『自分に還る 50代の暮らしと仕事』(PHP研究所),共著に『家事の呪縛をとく ノート』(主婦の友社)などがある。http://hiyocomame.jp
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時代の変わり目を、やわらかく生きる
「これからの世の中により必要な考え方ってなんだろう?」
この本ではやわらかく生きる人々に着目。 ある人は「シェアすることで場を作り」、 ある人は「事務職で独立」を、 ある人は「稼げない仕事を続ける」ことで資本主義経済と距離を置く。9人のインタビューを通して、いま求められるあたらしい軽やかさとはなにかを考える1冊。
写真/松村隆史、聞き手/赤木真弓