コロナ禍を通して、世の中が大きく変わりつつある昨今。かつての仕組みや方法が通用しなくなったとき、私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。
ライター・編集者の石川理恵さんが30代〜70代の道なき道を探る人たちに、仕事や住まい、家族について話を聞いたインタビュー集『時代の変わり目を、やわらかく生きる』から、マチュア世代3人のインタビューの一部をご紹介。それぞれの考え方から、これからの生き方のヒントが見つかります。
1回目は、かつては東京・中野の駅前で34年にわたり、枝元なほみさんや高山なおみさんなどの料理家を輩出した無国籍料理店「カルマ」を運営し、現在は鳥取で「お茶とごはんとおやつ tottoriカルマ」を営む丸山伊太朗さんです。
■みんなで分け合う生き方
若かりし頃の丸さんは、自分には表現するものが何もないと思っていたそうだ。
「自分は何も持っていないから、表現する人、何かを持っている人をカルマに連れてきて、みんなでワイワイやるのが性に合っているのかなあと。でもある時、自分が好きで、しかもしつこく長く続けているのって、料理と場づくりだと思ったんですよ。そうか、自分の表現ってこれなのかと。だから料理は好き勝手にやっているんです。レシピもないし、ひょっとしたら毎日ちょっとずつ違う。お客さんにもうちのオムライスは普通と違うけれども大丈夫ですか、こんなもんですけれどって、説明してから出しています」
何かを突きつける表現ではなく、「自分のやりたいことを、無理なくたのしくできていればそれでいいんだ」と思えるようになった。今は長く続けてこられたことに、居心地のよさを感じている。中野のカルマを閉めた時、たくさんの人が惜しんでくれたのは予想以上の出来事だった。過去にカルマへ通っていた人が、SNSなどでメッセージをくれることが今でもあって驚いている。カルマが好きと言ってくれる人に出会うにつれ、いつのまにか自分が代わりのきかないものを「ちゃんとつくれていた」のだと気づいた。
鳥取は時間の流れがゆるやかで、東京に比べれば圧倒的に人の数は少ないけれど、その分、共感できる人たちといつの間にかつながる風通しのよさがある。身の丈で動けるから軽やかな気持ちでいられる。
「コロナ禍の影響があって鬱々とした日もあったけれども、考えてみればコロナじゃなくてもカルマはすごく流行る店ではない。僕は自分がいいと思うことをぼちぼち続けながら過ごせればいいんです。だって、これからの時代、爆発的に資源が増えたり経済が右肩上がりになったりすることはないんだから。あるものをみんなで分け合って、どうすればみんなで一緒に楽しく生きていけるのかを考えたい。鳥取で流れているような時間が、これからの世の中の主流になるといいんじゃないかなあ」
石川理恵/いしかわりえ
ライター・編集者。1970年東京都生まれ。雑誌や書籍でインテリア,子育て,家庭菜園などライフス タイルにまつわる記事,インタビューを手がける。著書に『10年着るための衣類ケアブック』『身軽に 暮らす』(技術評論社),『自分に還る 50代の暮らしと仕事』(PHP研究所),共著に『家事の呪縛をとく ノート』(主婦の友社)などがある。http://hiyocomame.jp
※本記事は『時代の変わり目を、やわらかく生きる』からの抜粋です。
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「これからの世の中により必要な考え方ってなんだろう?」
この本ではやわらかく生きる人々に着目。 ある人は「シェアすることで場を作り」、 ある人は「事務職で独立」を、 ある人は「稼げない仕事を続ける」ことで資本主義経済と距離を置く。9人のインタビューを通して、いま求められるあたらしい軽やかさとはなにかを考える1冊。
写真/松村隆史 取材・文/石川理恵 再構成/赤木真弓