【気持ちのいい人生を歩く練習5】「”死なないように”生きてみることにしました」

引田かおりさん

『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社)を上梓した引田かおりさんのインタビューをお届けします。長らく家族を優先して暮らし、自己肯定感に乏しかったという引田さんが、「NO」という練習を重ね、自分自身の「好き」を優先した先にみつけた気持ちよさについて、話を伺います。シリーズ最終回です。

●ここまでの話
◎1 愛犬の死を乗り越えて。すべての不幸の源は、執着なのかも?
◎2 自分の宣伝を声高にしない人ほど、すごい仕事をしてきた達人かも?
◎3 ふくらんだ情熱の風船がしぼまぬうちに
◎4 こんなお母さんでごめんね、ってかつては思ってました


ーー【気持ちのいい人生を歩く練習1】で、紹介した「すべての不幸は、執着です」というフレーズが印象的でした。

引田かおりさん(以下、引田):はい。執着って人間が抱えているエネルギーのなかで、かなり重たいエネルギーなんじゃないかなと思っています。

ーー不要だとお考えですか?

引田:そうですね。物だと大切にしないのがよくないみたいな印象があると思うんですけど、でもたとえばそれがすっごい健康に執着するとかね。愛とか、お金とか、友達関係とかね……。

ーーひとつのことにばかりとらわれてしまうと、幸せな感じにはみえないかもしれない。

引田: そうなんですよ、幸せそうじゃないんですよ。だからその人が納得していろいろやってるんだったらいいけど。 たとえば恋愛に執着して、相手をすごいがんじがらめにして、そのときは安心するのかもしれないですけれど、決して健全な関係ではないですよね。すっごい健康に執着してストイックに生きたとしても、人間はいつかは死ぬわけだし……。

ーー確かに、余裕がなく感じてしまいますよね。

引田:だから、「あなたはそうなの?」「私はこうなのよ」って、お互いの状況や思想を尊重し合える関係が一番いいかなと思っています。

ーー引田さんがよくおっしゃる「手放す」というのも大事ですよね。「 手放すと、そのあいたスペースに縁や運、よい気がまた入ってくるのよ」って 教えてくださいましたよね。「たくさんものをもつには、体力や気力が必要で、主人公はあくまでも自分。ものに支配されないように、込み合ってっきたら見直しのとき」と本にもありましたね。

引田:ものに執着せずに手放すと、本当に新しいものが入ってくるから不思議。スケジュールが真っ黒だと、どんなにやりたい仕事でもほかのだれかに譲ることになりますよね。余白は余裕です。

引田かおりさん
ギャラリー事務所の天窓からはきれいな光が入り、心地よいエネルギーを発している。

「死なない」と思って生きてみる

ーーもうひとつ、引田さんからかつて教えていただいたキーワードで気になったキーワードがあって。

引田:はい、なんでしょう?

ーー「死なないと思って生きる」という言葉です。50代、60代になってくると、どうしても「おしまい」を意識してしまう方も多いと思うんです。

引田:そうですよね。死はどうしても避けられないことですものね。でも、何歳まで生きられるかはわからないじゃないですか?でも、社会がマーケティングとして、「貯金がいくらないと困りますよ」とか「こうしとかないと安心じゃないですよ」とか、「保険に入っておきましょう」とか不安を煽っている部分もあると思うんですよ。

ーーそうですね。聞いていると不安になります。

引田:かくいう私も、 前の家に住んでいたときに、もうこの次、引っ越すのはケア付きのマンションだったりするんだろうなって思ってたんですよ。

ーー でも、新しい家を買い……。

引田:私的には、若くもないのに大丈夫?って思いましたよ。でもすっごい主人は買う気満々で。そのときにハタと思いました。終活、老い支度みたいな情報に流されて、自分もそっちを向いてたなと思って。もしかしたら明日、死ぬかもしれないけど、あと10年、20年、元気でいられるかもしれない。だったら、明るい方を向いていたほうが人生楽しいなって思ったんです。

ーー人生後半の方向転換。

引田:「死んだ後はこうして」とか漠然と思っていたんです。でも、ちょっと知ったこっちゃないなって思い始めて(笑)。それは残った人が好きにしてくれたらいいなと思って。だから実際に、お墓も用意してないんです。「森にまいてくれたらいいな」みたいな気持ちでいるんです。

ーーそうなんですね。死ぬという話で言うと、11歳年上の旦那様に対して、心配はありますか?

引田:ありますよ。やっぱり1人になっちゃうのかなとか。だから一緒に死ぬためにはもう私、これ以上、体にいいことをやらないほうがいいんじゃないかななんて思ったり。 でももうこればっかりは分からないですよね。だから一日一日をおいしく楽しく生きるしかない。

引田かおりさん
インタビュー時に用意してくださったおやつ。コロナ禍で外食を控え、「テイクアウト」という楽しみを見つけた。これはお気に入りのイタリア料理店の特製デザート・ババ。

ネガティブな感情に流されないために

ーー最後に、テーマの「気持ちのいい人生を歩く練習」というか、引田さんのネガティブな感情の打ち負かし方について教えていただけますか?

引田:心と体は繋がっているから、最近は体を鍛えることもしています。 やっぱり自分の中心がしっかりしてたらネガティブさも跳ね返せると思うんですよ。

――物理的に軸をしっかり整えるということですね。そのほかには?

引田:あとは、ネガティブな感情に流されないために、自分でしっかり結界を張るようにしています。

ーー結界ですか?

引田:はい、私の場合はやっぱり掃除と整理整頓だったんですよ。たとえば、空き缶が落ちてたりタバコのポイ捨てがある所だったら、やっぱりポイッてされちゃうじゃないですか。でもそこがすっごいきれいな町だったら、「ごみ箱がある所まで持ち帰ろう」って思うでしょう。やっぱり掃き拭き清めてきれいにしておけば、ネガティブな感情や事柄も踵を返して、くるりと帰ってくれるかもしれないじゃんって思って。

ーー引田さんの整理や掃除にはそういう意味があったんですね?

引田:はい!気になるところは掃除して、空気も淀んでいたら入れ替えて。「そういう積み重ねがあるから大丈夫」っていうふうに自分のことも支えられるし。

引田かおりさん
ギャラリー内には空へと続く階段が据えられ、展示の際には美しいものたちが並ぶ。神々しい雰囲気のこの階段は、「ギャラリーフェブ」を象徴する存在。

ーー5年後、10年後のこととか考えたりします?

引田:あんまり先のことは考えないんですけど。現状維持をできたらいいなと。5年前よりは確実にいろいろ衰えてはいるから。そこを知恵と工夫で補います。

引田かおりさん
「『どっちでもいいをやめて』と言っておきながら、どっちでもいいグレーなこともいっぱいありますよね。ただ、自分がどうしても譲れないことをちゃんと主張して幸せになりましょう!っていうのがメッセージです。シュークリームでもチーズケーキでも、本当にどっちでもいいってとき、私もありますもの(笑)」

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