話題の新刊『人生後半、上手にくだる』の著者・一田憲子さんに聞く人生の新しいゴールの探し方
人生後半、これまで良しとしてきた価値観を見直す時期がきているのかもしれません。編集者・ライターの一田憲子さんに、人生の後半戦に入ってからの幸せの探し方を伺いました。
PROFILE
一田憲子/いちだのりこ
1964年生まれ。編集者、ライターとしてさまざまな媒体で編集・執筆を手掛ける。近著に『明るい方へ舵を切る練習』(大和書房)がある。数年前に始めたテニスが一番の楽しみ。ichidanoriko.com
お金がたくさんなくても幸せにはなれる
昨年秋に『人生後半、上手にくだる』というエッセイ集を出版した一田憲子さん。読んだ人たちの反響から、人生後半の生き方に漠然とした不安を持っている人はとても多いんだ、と気づいたといいます。
「人は上を目指して、上り続けなくてはいけないって思ってしまうんですよね。でも人生も後半になって、それは違うのかもしれない。上手に下っていく方法があるんじゃないかって、考えるようになったんです」
自身も来年は還暦。今後の仕事のこと、親の介護やお金、健康……30代、40代では考えなかった課題が次々と現れてきます。「もともと不安がりのペシミスト。悪いほう、悪いほうへ考えてしまう性格」。病気になったらどうしよう、遠くに暮らす両親になにかあったら、と不安の種を抱えていたのですが。
「昨年の人間ドックで大腸ポリープが見つかってしまって、手術を2回して取ったんです。結果的には良性だったんですが、はっきりする前は、もしかしてがんかもと覚悟して。悶々とはしたのですが、でもここまでがんばったし、ま、いいか、とも思ったんですよ。不安がりの性格なのに、そんなふうに思えた自分が意外でした」
先回りしていろいろ心配していたけれど、実際に体の不調に遭遇すれば、何とか冷静に対応していくしかない。そんな覚悟やいい意味での開き直りができたのも、歳を重ねたおかげなのかもしれません。
「私たちの年代は価値観のギアチェンジが必要なのでは。去年より今年がより仕事が増えて、収入も右肩上がりになる、そんなことを目指すのはもうたぶん無理なんですよね。でもお金がたくさんなくても幸せにはなれる。自分なりに働いて、晩ご飯を夫と美味しく食べて一日を終えるという幸せもある。若いときに目指したのとは違うかもしれないけれど、人生後半の新しいゴールを探すのも面白いですよね」
上手に下りながら、今までとは違う幸せのものさしを探す、一田さんの話を聞いていると、それはなんだかわくわくする冒険のように思えてきます。
『クウネル』11月号掲載 写真/森山祐子、取材・文/船山直子
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